第59話 魔王様は小学6年の最後の夏休みを遊び倒したい③

夏休みの宿題と言う名の学生なら誰しもが強制参加のクエスト。

我と魔法使い、そしてアキラに関しては小学校最後の夏休みの宿題ともあり、量も多い。

毎日コツコツ進めて行けば難なく終わる量ではあるが――アキラは若干勉強嫌いな所がある。

目の前に報酬が無ければ動くことが出来ないらしい。



「そもそも、将来の為の勉強っていうけど……将来の為より今の為の報酬が欲しい……」

「アキラの言う通りですね。報酬なくして作業と言うものは進みません。大人になればその報酬と言うのが給料と言う形で還付されますが、子供の内は報酬と言うものが中々ありませんからね」

「お小遣いって言ってもね……。欲しい物って大体が高いんだよ、大人ベースで考えるからさ」

「子供ベースで考えられたものなんてこの世界では僅かですよ。考えてもみなさい、有名なオモチャ玩具ですら子供が買うにはお高い値段設定ですよ?」

「変身ベルトとかになると、ちょーっと手が出ないよねぇ」

「大人の力を借りるしかない子供のお財布事情だな」

「そこは大人になるのを大人しく待ちましょう。焦らなくとも人は老います」

「そうですわアキラ様、つい焦って大人になりたくて、ウッカリ大人になってしまって、スッカリ枯れ果てて、ポックリ逝くのが人間ですのよ?」

「嫌な連鎖だなぁ……」



僧侶の最後の一言に、我たちは遠い目をしてしまった。

確かに小さい頃は大人になろうと焦っていたのは確かではあるが、ウッカリ大人になるのだけは避けたいところだ。

そう、【つい】【ウッカリ】【すっかり】【ぽっくり】で終わる人生にはなりたくはない。

まぁ、冒険者にはあるある世界かも知れないが。


真面目に勉強を進めて行けば、柱時計のボーンと言う音で時間が立ったのが分かる。

そろそろ小腹が空き始めたおやつタイムだろう。

「暑い時こそかき氷が食べたい」と言う勇者のリクエストで、今回は簡単にできるかき氷がオヤツだ。

シロップは色々用意してあり、ある一定の家庭にはあるであろう【かき氷機】で氷を粉砕するのだが、なまじ昔からある為、手回しは男のするべき作業だろう。

ペンギンの姿をしたかき氷機を取りだし、大量の氷をとシロップも用意すると、綺麗に片付けられた机の上にて氷をガリガリ削っていく。

すると、アキラは削られていく氷を見ながら口を開いた。



「こうさ、ゲームの世界とかだと氷魔法とかあるじゃん?」

「ありますね」

「それをさ、二人魔法使いがいたとしてさ。片方が氷魔法、片方が氷に向けて風魔法使えば、かき氷って出来たんだろうな」

「周囲もひんやり出来ますね」

「暑い場所ではうってつけですわ」

「問題はMPとの兼ね合いじゃな」

「でもさ、テントとかで野営する時とかにすると、ロマンチックじゃないかなって思ってさ」

「「「「ロマンチック……」」」」

「流石に無いかー」



アキラは溜息を吐きながら頷いていたが、僧侶と勇者は顔を赤くしながらワナワナ震えている。

考えが読める……読めるぞ!


アキラと二人でキラキラ舞う氷を見つめ、手と手を取り合い方を寄せ合い微笑み合う様なグラニュー糖を吐き出したくなる光景を想像しているに違いない。


更に僧侶!

我と二人でキラキラ舞う氷を見つめ、手と手を取り合い見つめ合う様な怖気の走る光景を想像しているに違いない。いや、それ以上の事もきっと想像しているであろう破綻した顔!



「……葉月さん、少々はしたないお顔になっていますよ」

「ハッ!」

「小雪、妄想の世界から戻ってきなさい。シロップはイチゴで良いんですか?」

「ハッ!」

「ワシは全部のシロップを混ぜた闇シロップを試したいのう」

「勇気ありますね」



こうして、宿題に一区切りついた我たちはかき氷を楽しく美味しく食べ、体も冷えた所で勉強会はお開きとなった。

続きはまた明日……。

お盆の忙しい時期は流石に寺の仕事に専念するものの、それまでにやるべきこと、やりたいことは山ほどある。

お盆が過ぎれば、小学6年生最期の想いで作り。

そして今年の夏休み終盤では、地域の夏祭りが開催される。



「さて、明日は美味しいスイカを頂いたので、宿題が終わればスイカ割りなんてどうです?」

「いいね! でも皐月と小雪は止めた方がいいかな。一発で当てちゃいそうだし」

「「むむむ」」

「祐一郎もやめておこうか……パーンって弾けそうだし」

「致し方ありませんね。ではアキラと恵さん、そして葉月さんの三人でやってもらいましょう」



こうして、後衛二人と多分前衛ではなかろうかアキラの三人でスイカ割りをして貰う事となり、朝から流水でスイカを冷やして置こうと我は決めた。

ついでに、もぎたてトマトと焼きトウモロコシなんてのはどうでしょうねぇ……。

夏ならば美味しく頂けるでしょう。

庭先にある小さな畑から幾つかもいでくれば美味しく食べられるでしょうし、ちょっとした農業体験もして貰いましょう。


趣味で始めた家庭菜園。

我はどっぷりハマっているのであった。



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