第51話 魔王様、枯れていると勇者に言われてしまわれる

 この異世界に来てから感じることは、数多くある。

 それは良い意味でも、悪い意味でもだ。

 先日の学校の授業であった、不完全な性教育の授業。

 あのような中途半端な事しか教えることが出来ないならば、いっそ授業として無かった方が良かったのではないだろうかと思う程の中途半端さだった。

 中途半端な性教育をしておきながら、男女が付き合う事は悪である……と言う教えは、返って多感な年頃の子供には害があるのではないだろうかとも思う。

 あれでは、性に目覚める低年齢化と言われても仕方あるまい。


 だが――実際、おっぱいは良い。

 これは真理である。


 しかし、そんな真理は、別の目線で見た場合――守るべきものへと変わるのだ。

 なぜなら……。



「今日、クラスの男に乳を揉まれてな。思いきり顔面を殴ってやったぞ!」



 勇者が帰宅し、晩御飯を食べている最中の一言だった。

 一瞬にして賑やかだった食卓は静まり返り、夏場だというのに、殺気渦巻く氷点下へと変わるのに三秒かかっただろうか?

 そんな静まり返った食卓で最初に口を開いたのは、なんと父であった。



「小雪、クラスの男子の、誰君かな?」

「原田ハガネだな! 全くあやつは女と言う生き物は男が支配して然るべきと言う考えでな! 全くもって失礼な輩だ! 『俺が揉んでやったんだ、ありがたく思えよ!』 等と言いおって、頭にきて鼻と口の間に思いきり右ストレートをぶちかましてやったぞ!」

「良い急所を選びましたね」

「あんなに醜く盛ったサルのような真似をしていれば、そのうち痛い目をみるだろう。お兄ちゃんのように枯れろとは言わないが、節度は持ってもらいたいものだ」

「待ちなさい小雪、私は枯れていませんよ」

「でも、そうかそうか~。 僕の、大事な、小雪に、手を出した、自殺志願者がいるってことだね? OKOK! 明日はアキラと一緒にその股間ハガネくんを呼んで楽しいパーティータイムだね!」

「恵さん、お待ちなさい」

「祐一郎、明日はちょっとだけ生徒会は遅れるよ。ごめんね、ちょっとした教育的指導が必要な生徒がいるみたいだから、今回は仕方なく、本当に仕方なくだけど、生徒会の参謀と生徒会の魔法使い二人で、教育的指導してくるからさ。ちゃっちゃと終わらせてくる予定ではあるけれど、予定は未定っていうじゃない? まぁ、二度とハガネ君のハガネが機能しなくなるかもしれないけれど、それは些末な問題だからさ!」

「それはそれで大問題ですよ?」

「いいかい祐一郎。大問題なのは、知性のあるサルが誰彼構わず女性に対して手を出したり暴言吐いていることが一番の大問題なんだ。違うかい?」



 魔法使いの笑顔で発する声色は、非常に怒りを含んでいる……これはガチでヤバい奴だなと我は察した。

 下手をすれば死刑の方がまだマシレベルにやるだろう。



「小雪」

「なんだ?」

「明日の放課後、恵さんとアキラが行き過ぎる行動をしない様に、あなたも一緒に行きなさい」

「そんな大げさな~」

「行きなさい。行かねば明日の夕食は……貴女の嫌いなもの一色に染めますよ」

「意地でも行きます!」

「と、言う事ですので、お話し合いは小雪、恵さん、アキラ、そしてハガネ君でいいですね? もし助けが必要になった場合、小雪、貴女は真っ先に生徒会室に来なさい」



 よりによって、勇者のチッパイを揉む愚か者が現れるとは……。

 勇者に手を出せば、魔法使いだけではなくアキラとて黙ってはいないだろう。

 そして、我にとっても血の繋がった一応兄妹……。何とも複雑な気分だ。

 ――相手を殴ればいいのか。

 ――相手の首を絞めればいいのか。

 ――相手の耳を引きちぎればいいのか……五体満足で家に帰せる自信が我にはない。



 おっぱい。

 それには夢が詰まっている。それは紛れもない事実だ。

 だが、その大事なおっぱいが他者によって辱めを受けた時、兄と言う生き物は……一番の脅威なのかもしれないと澄ました顔で茶をすすった。



「教育的指導で済ませられるような問題ではないのですよね」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、貴女も罪づくりだなと思っただけです」



 おっぱい。

 それは時に、汚されてはならない神聖なもの。

 それが例え……勇者のチッパイであったとしても……。


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