第50話 魔王様、学校で性教育を受けられる

 七夕も終わり、学校の授業も平常運転となった訳だが、今日の午後の授業は、六年生らしく『性教育』というモノだった。

 男子は色めき、女子は色めいている男子に対して冷たい視線を送っている。

 そんな中、我と魔法使いは特に何も思わず、自然の摂理として受け入れている。


 そもそも、人間とは男女の性交渉があって子供が出来るのだ。

 そして、それらは自分たちが生まれたルーツでもある。

 家畜とてそうだ。

 人々が食する肉と言うのは、性交渉をさせることによって国民に還元されているのだから、特段珍しい事ではない。



 そんな考えのまま始まった午後の性教育。

 淡々と語る内容に至っては、女子の生理とは身体が大人になった証であり、妊娠することのできる身体なのだという説明。

 そして男子には精通と言う物があり、それを得て初めて性交渉が出来るようになるのだという簡単なものだった。

 そして子作りに関しては、絵を用いた内容で、男子は興奮し、女子は恥ずかしそうにしている。


 個人的な考えだが、こういった性教育とは男女別に行う方が良いのではないだろうか?

 とは言っても、時間もそんなに残されていない学校生活において、一度に済ませてしまおうという学校側の事情も感じ取ることができる。

 問題があるとすれば、この授業の後……男女の変化だろうか?

 男子は多少なりと女子を見る目が変わるだろうし、女子は女子で男子に対する気持ち悪さが出てきてもおかしくはない。

 その事を考えると頭痛がしてくるが、この年代と言うのはサルのようにエロに執着するものも少なくはない。

 少しだけ気をつけねばならないだろう。



 一通りの授業が終え、大人になる事と言う事で締めくくられた性教育。

 正直言えば、なんとも中途半端な性教育であった。

 また、男女の恋愛は悪であると言わんばかりの授業で、その先の事になると、汚らしい出来事であるという一方的な内容に近かった。

 そんな時だった――。



「生理が始まってる女子って妊娠できるんだろう? エロいことしたら直ぐ妊娠するんだろう? 女ってエロいよな~」

「何言ってんのよ! そう言う男子だって直ぐにエロいことばかり考えて気持ち悪い!!」



 早速、性教育に関する弊害が出てしまった。

 男女でいがみ合うまではなくとも、ニヤニヤとする男子と、男子への嫌悪感により女子同士で集まっているグループだ。

 掃除時間だというのに、教室の真ん中を開けた状態でにらみ合う男女グループに、我と魔法使いは溜息をついた。



「少し前は生理が移るとか言ってた男子が何言ってんの?」

「全くですね……。そもそも、女性をそういう目線で見るのは感心しません。かといって、男性に対して嫌悪感を抱くなとも……今段階では言いにくいですね」

「なんだよ祐一郎も恵も! 女子の味方か~?」

「恵はやっぱり女子だったんだな。そして恵と祐一郎は付き合ってんじゃないの?」

「やべぇ。それやべぇ」



 はやし立てる男子、困惑気味の女子に我は溜息を吐くと、恵は我にしなだれかかり「ふーん? 僕と祐一郎って付き合ってた方が皆嬉しいの?」と笑顔で口にする。



「美男美女でお付き合いってのも悪くはないけどね? でも僕ってば小雪に一途なんだ。その兄である祐一郎と仲良くするのは、今後の未来を考えての事だよ? 将来を考えたい相手がいない男子って、寂しいよねぇ」

「なんだと!!」

「そもそも、生理は生き物ならどんな生き物にだってあることだよ? まぁ、全ての生き物に……と言うのはないと思うけど、基本的に生き物なんて繁栄するために備わってるものの一つなんだから、ギャーギャー騒ぐことじゃないでしょ? それに、僕たちが食べてる豚も牛も、肉に、牛乳になる為に、人間の為に繁殖してるんだよ? 家畜ですらある生き物の摂理を、人間の僕たちがあーだこーだ言うのは滑稽だよ、解る?」

「確かに恵さんの言う通りですね。人間とは繁栄の為に子供を作りますし、その為に体と言うのは何万年と男女共に変わってはいない。それをいやらしく見る方がおかしな話ですね」

「一々そんな当たり前の出来事に反応していたら、身が持たないよ」

「お前たち、達観してんな」



 我と魔法使いの言葉にアキラは苦笑いし、男子は言葉を無くし、女子は感動半分、困惑半分という所だ。



「それでも盛り上がりたいのならどうぞ。私たちは生徒会がありますんで掃除が終わり次第生徒会室に行きますが、その後のお話し合いは男女でどうぞお楽しみください」

「まぁ、自然の摂理に対してアレコレまだニヤニヤしながら語る阿呆はいないと思うけどね。女子は女子で体の事を受け入れるのに大変な時期だってあるんだ。男子がアレコレ口出すのは、ダサいし、女子もそんな男子の相手してたら身が持たないから、そこだけは注意ね」



 こうして我と魔法使い、そしてアキラが教室を後にした後の事は解らない。

 だが、翌日は特に問題なく男女共に過ごしていたところを見ると、特に問題は起きなかったのだろう。

 それでも、一部の男子はニヤニヤしている者もいたが、それはそれで仕方のない事なのだろう。



 この一件で、魔法使いは女子たちからの支持を集め、遠巻きに敷いてた女子たちからも挨拶をされるようになった。

 やはり、女性の体の事を気遣う男子……と言うのは大きかったのだろう。

 我はと言うと、特に変わらず。それはアキラも同じだ。

 そして、魔法使いは言う。



「男を敵に回すより、女を味方につけた方が、人生上手く回る事の方が多いんだよ? まぁ、女の集団って面倒だけどね」



 前世が女性だった魔法使いならではの、経験談のような一言だった。


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