第3話 魔王様、こどもの日を楽しみにされる

 妹が前世の記憶、勇者としての記憶を取り戻して数日後。


 この世界で血の繋がった兄妹として生まれてしまった以上、最低限大事にしなくてはならないのは我とて解っている。

 戸惑いながらも何とか以前のように振舞おうと頑張る勇者を嘲笑いたくなるのを抑え、何時もの無表情で過ごしている。



 クラスの女子からはクールで格好いいだのと影で言われているが、興味の無い者達が何を言っていようと関係の無いことだ。

 無論、男共からは嫌がらせを受ける事は多々ある。

 だがそれらも華麗にスルーしながら、出来るだけ穏便に過ごす我は偉いと思う。

 オル・ディールの世界であれば魔王城の門の前に串刺しの刑にして野ざらしにしていただろう。



 いや、魔王に無謀にも攻撃を仕掛けた村人達と言う事を称え、サキュバスに死ぬまで搾り取らせると言うのもいいかも知れない。

 褒美を取らせるのも大事なことだ。



 ――だがそれ以上に大事なことは他にある。



「こどもの日は同じ地区の小学生と小さな子達は遠足に行くのよ!」

「遠足……ですか」

「と言っても毎年同じところなんだけどね」



 苦笑いしながら我に語る聖女。

 そう言えば両親もどちらが遠足について行くべきか語り合っていた気がする。

 勇者も連れて行く事を考えれば母だろう。



「遊園地に行くのですか? 動物園?」

「それがね~忍者村ってとこなの」

「忍者村……」



 またマイナーな場所に行くものだ。

 いや、外国とか言う場所の人間達にとっては聖地だったか?



「チャンバラごっことかも出来るみたいだけど、何時も男の子達がやりすぎちゃうのよね」

「ほう、戦うのですか?」

「そう、凄いんだから!」

「私も戦ってみたいですね」

「そう言うところはやっぱり男の子だなぁ~」



 苦笑いする聖女に我は首を傾げた。

 戦える場所があると言うのなら戦いたいと思うのが普通だろう?

 どうやらこの世界では一般的では無いらしい。どちらかと言うと子供のお遊びと言う所だろうか? ならばある程度手加減しなくては死者が出てしまうな。

 ウッカリ相手の首でもへし折ろうものなら、色々と面倒だ。



「私は今年が最後だから、祐ちゃんと最後にいけて良かった!」

「私は最後と言う言葉は嫌いです」

「あぁ、ごめんね?」

「いえ、なので私も相応に大人になったら二人で色んなところに出かけましょうね」

「ませてるな~」



 それでも照れ笑いする聖女。

 だが我は本気だ。

 確かに、産まれたての当時は色々とショックなことがあったのは事実だ。

 下半身を何度も見られるし、良いこと等なに一つなかった。

 しかし、今思えばある種の快感とも言える。それは何故か?

 相手が聖女だったからだ。

 大人になった時、立派に育った下半身を見せるのが今から楽しみでならない。



 そんな事を思っていると、昼寝から起き出した勇者がやってきた。

 無意識に掛け布団を持っているところを見ると、無理やり起きてきたのだろう。



「小雪ちゃん起きた?」

「うん」

「まだ半分寝てるかな?」



 クスクス笑う聖女に我は立ち上がると、勇者の額にトンと指をつけた。

 途端倒れこむように眠る勇者、まだまだ未熟のようだな。



「おやおや、どうやら耐え切れず眠ってしまったようです」

「私が運ぼうか?」

「いえ、その辺で寝させておきましょう」



 大事な聖女との二人の時間を邪魔されるわけには行かない。

 少し魔力を流せば眠りに落ちてしまう勇者など放って置けばよいのだ。



 この世界でも、訓練を積めば多少なりと魔力を使うことが出来る。

 とは言え、簡単な暗示を掛ける、もしくは勇者にしたように眠らせると言ったものが今の我にできる程度のことだが、眠れば魔力は回復する為問題は無い。



「それで、忍者村にはいつ向かうのです?」

「来週の日曜だよ」

「では、その時は一緒に見て回りましょうね?」

「そうだね! でも友達も一緒に来るかもしれないけど大丈夫?」

「構いませんよ」



 寧ろ好都合。

 何かの拍子で聖女の好きな相手だの色々聴けるかも知れない。

 情報収集がこの世界では難しいなら、自分が動き回れば良いだけの事だ。

 聖女からは我は友人とは遊ばないのかと聞かれたが、特に友人らしい者もいない為、大丈夫だと伝えた。



 同じ年頃の子供達と遊ぶだけ、無駄と言うものだ。

 実際年齢(中身)が違うのだから。



 その後、五時の鐘の音が聴こえ聖女は家に帰って行った。

 本当に忌々しい鐘の音だ……寺の息子として生まれていなければ破壊していたかも知れない。

 聖女が帰宅してから起き出した勇者は「聖女様は!?」と辺りを見渡していたが――。



「起き出したのは良いですが、直ぐにその辺で眠りこけていましたよ」

「――なんと言う失態!」

「貴方はまだ子供なのです。しかも三歳です。睡眠を欲するのは致し方ないことでしょう」



 至極真っ当なことを言えば勇者も納得するしかない。

 最早我の掌で踊らされるとも知らないだろう。



「我もその頃は良く眠っていましたよ。あぁ、無論聖女が添い寝してくれていましたが」

「クソッ!」

「女の子がクソクソ言わないと先日叱ったばかりですよ」

「うぅぅうう……」



 掛け布団を握り締めて悔しがる勇者を嘲笑い、私は家の手伝いをしに勇者を置いて去って行った。


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