〇友達

きようちゃん、帰りにカフェ寄ってかない?」

「うん、行く行く! あ、でもちょっと待ってね。もう一人誘ってみるね」

 くしは女ともだちに断りを入れ、かばんに教科書を詰めるほりきたの元へとやって来た。

「堀北さん。私、これから友達とカフェに行くんだけど良かったら一緒にどうかな?」

「興味ないから」

 問答無用、一刀両断に櫛田の誘いを切り捨てる。

 これから買い物をする予定があるとか、誰かと待ち合わせてるとか、うそでもいいのに言えないのか。露骨な拒絶を見せる堀北。だけど櫛田はがおを崩さない。

 こんな光景は、何も珍しいものじゃなくなっていた。入学してから櫛田は定期的に、こうして堀北を遊びに誘っている。少しくらい応えてやればいいのにと思うのは、傍観者の勝手な解釈だろうか。だが、堀北が一人を望むことを、誰も否定することは出来ない。

「そっか……じゃあ、また誘うね」

「待って、櫛田さん」

 堀北が珍しく櫛田を呼び止めた。もしかしてついに、櫛田の誘いに折れたのか?

「もう私を誘わないで。迷惑なの」

 冷たくあしらうようにそう言った。

 だが櫛田は寂しそうな顔を見せることもなく、笑顔を絶やさずこう返したのだ。

「また誘うねっ」

 櫛田はそれからいつものように友達の元へ駆け寄り、グループで廊下に出ていく。

「桔梗ちゃん、もう堀北さんを誘うのめなよ。私あの子嫌い───」

 教室の扉が閉まる寸前、そんな女子の声がかすかに聞こえて来た。

 その言葉は傍に居た堀北にも聞こえたはずだが、少しも意に介した様子が無い。

「あなたまで、余計なこと言ったりしないわよね?」

「ああ。お前の性格は十分理解したつもりだし。無駄だろうからな」

「一安心だわ」

 帰り支度を済ませた堀北は、自分のペースで一人教室を出て行った。

 オレは少しだけ教室でボーっとしていたが、すぐに飽きて席を立った。帰るかな。

あやの小路こうじくん、少しいいかな?」

 まだ残っているひらたちの前を横切るとき声をかけられた。俺は構わないと平田に小さく返事をする。平田から声を掛けられるなんて珍しいこともあるもんだ。

「堀北さんのことなんだけど、どうにかならないかな。女子からちょっと意見が出ててね。彼女いつも一人だから」

 くしのグループ以外からも、煙たがられ始めてるってことか。

「もう少し仲良くするように言ってもらえないかな?」

「それは個人の自由じゃないのか? ほりきたが誰かに迷惑をかけてるわけじゃない」

「もちろん分かってるよ。だけど、心配する声も多いからね。僕はクラスの中で絶対にいじめなんて問題を起こさせるつもりはないから」

 虐め? 飛躍的な話だと思ったが、もしかするとそんな動き、兆候があるのかも知れない。だから警告してくれたのか? ひらぐ純真な目をオレに向けてくる。

「オレに言うより平田から直接言った方がいいぞ」

「……そうだね。ごめん、変なこと言って」

 堀北は日に日にクラスから孤立していく。あと1か月もすれば完全にクラスのはれものだ。

 もちろん、それは堀北個人の問題であって、オレが関与するべきことじゃないが。


    1


 学校を出たオレは真っ直ぐ寮に足を向けた。そこにはともだちと出かけたはずの櫛田が、誰か待っているのか壁に寄りかかっていた。オレに気づくと櫛田がいつものがおを向ける。

「良かった。あやの小路こうじくんのこと待ってたんだよ。ちょっと話がしたくって。少しいいかな?」

「別にいいけど……」

 まさかの告白……なんて展開は、1%くらいしか考えていないぞ。

「率直に聞くね。綾小路くんは、堀北さんが笑うところ、一度でも見た?」

「え? いや……覚えはないな」

 どうやら櫛田もまた、堀北のことでオレに話があったようだ。そして、思い返してみるが、堀北の笑ったところは見た覚えがない。櫛田がオレの手をつかみ、ぐっと距離を縮めてくる。華の香り? ものすごく心地よい香りがこうをくすぐる。

「私ね……堀北さんの友達になりたいんだっ」

「お前のキモチは十分伝わってるよ。最初は色んな子が堀北に声かけてるみたいだったけど、今でも声かけてくれるのは櫛田だけだからな」

「綾小路くん、よく見てるんだね、ほりきたさんのこと」

「見てるっつーか、隣の席だとどうしても情報が入って来るんだよ」

 女子は女子で、入学初日からグループ作りに躍起になっていた。男子よりも派閥、縄張り意識のようなものが強いのか、20人ほどのこのクラスでも4つほどの勢力が出来上がっている。大勢と仲良くしつつも、どこかでけん制し合っていると言うか。

 ただその中でも例外なのは、今目の前に居る櫛田だ。どのグループにも顔が利き、それだけにとどまらず絶大な人気者になり始めている。ほりきたに対してもあくまで物腰柔らかく、ともだちになろうと粘り強い行動を続けている。こんなこと、普通の生徒にはやろうと思っても出来ないことだ。そんな部分こそ、皆から慕われる理由なのかも知れないな。

 おまけに可愛かわいい。

 おまけが一番の魅力なのは、世の中の商品にもありがちなパターンだろう。

「堀北にくぎ刺されただろ? 次、どんなこと言われるか分かったもんじゃないぞ」

 あいつが歯に衣を着せるタイプじゃないことは分かっている。すれば、今以上にきつい言葉を浴びせられるかも知れない。そのことでくしが傷つくのは、正直見たくないな。

「協力……してもらえないかな?」

「うーん……」

 オレは即座に返事をしなかった。普通こんな可愛い子にお願いされたら、一発で承諾するところだ。ただ、事なかれ主義のオレとしては前向きにはなれない。それに堀北の容赦ない言葉で櫛田が傷つくところを見たくない。ここは断腸の思いで断ることにしよう。

「櫛田のキモチは分かるけど……」

「ダメ……かな?」

 可愛い+お願い+上目遣い=致死。

「……仕方ないな。今回だけだぞ?」

「ほんと!? ありがとうあやの小路こうじくん!」

 オレが協力すると聞き、心底うれしそうに笑う櫛田。

 ……可愛い。今すぐ付き合ってくださいと口走ってしまいそうになるくらいだが、事なかれ主義のオレにそんなちやなことが出来るはずもない。

「で、具体的にどうしろって? 一口に友達になりたいって言っても、簡単じゃないぞ」

 何をもって友達とするかは、オレも答えを出せない難しい問題だ。

「そうだね……。まずは堀北さんの笑ってるところを見る、かな?」

「笑ってるところねぇ」

 がおを見せる行為は、相手に少しでも気を許しているからこそ出来ることだ。

 そんな関係になれば必然、それは友達と呼べるかも知れない。

 笑顔を見る、という点に着目する辺り、櫛田は人のことを良く分かっているのかもな。

「笑わせるためのアイデアはあるのか?」

「それは……これから綾小路くんと考えようかなって」

 てへっと申し訳なさそうに、自分の頭を軽くグーでたたく仕草を見せた。

 ブスがやったらなぐり飛ばしてるところだが、櫛田だと高ポイントだ。

「笑顔ねえ……」

 櫛田のひょんなお願いにより、オレは堀北の笑顔を見るためのつだいをすることになった。果たしてそんなことが本当に可能なんだろうか? はなはだ疑問である。

「とりあえず放課後になったら、ほりきたを誘い出してみるよ。寮に戻られたら手も足も出ないからな。どこか希望の場所はあるか?」

「あ、じゃあパレットなんてどうかな? 私はよくパレット利用してるし、堀北さんも何となくそのことが耳に入ってるんじゃないかな?」

 パレットって、学校内でも1、2を争う人気のカフェだった気がする。

 確かに放課後、くしはよく他の女子とパレットに行く話をしている。

 オレですら耳にしているくらいだから、堀北も無意識のうちに覚えているだろう。

「二人がパレットに入って注文したら、その後ばったり、でいいかな?」

「いやそうだな……それじゃちょっと甘いかもな。櫛田のともだちにも協力って頼めるか?」

 堀北は櫛田の存在に気付いた瞬間帰ってしまうかも知れない。出来れば席を立ちにくいという状況を作っておきたい。オレは即席で考えたアイデアを櫛田に話して聞かせる。

「おぉ~。それなら確かに、すごく自然かも! あやの小路こうじくん頭いいんだね!」

 櫛田は、うんうんと何度もうなずきながら、目を輝かせて話を聞いていた。

「頭とか別に関係ないんじゃないか? とりあえず、そんな感じで」

「分かった、期待してるねっ!」

 いや、そんな期待されても困る。

「櫛田ですら門前払いなのに、果たしてオレが誘って、まず堀北が来るかどうか」

「大丈夫だよ。堀北さん、綾小路くんのことは信用してると思うから」

「どうしてそう思う? 根拠を示せ根拠を」

「うーん、何となく? だけど、少なくともクラスの誰よりも信用されてるはずだよ?」

 それは他に適した人が居ないだけではないだろうか。

「オレが堀北と話せるようになったのだって、なんつーか偶然だからな」

 たまたまバスで出会って、たまたま席が隣同士だった。

 どちらか一つでも欠けてたら、多分口すらいていなかったかも知れない。

「人との出会いは、ほとんどが偶然じゃない? それが友達になって、親友になって……恋人、家族になっていくんだよ」

「……なるほど」

 言われて見ればそうかも知れない。こうして櫛田と話すようになったのも偶然だしな。

 ということは、やがてオレと櫛田が恋人関係になると言うこともあるわけだ。


    2


 やってきました放課後。生徒たちはおのおの放課後ライフを楽しむために、どこに行くか相談し合っている。一方オレとくしくばせして、作戦決行を確かめ合う。

 ターゲットとなるほりきたは、いつものように一人黙々と帰り支度を始めている。

「なあ堀北。今日きよう、放課後暇か?」

「時間を持て余している暇はないわね。寮に戻って明日の準備もあるし」

 明日の準備って、ただ学校に来るだけだと思うんだが。

「少し付き合ってほしいんだが」

「……何がねらい?」

「オレが誘うと狙いがあるように思えるのか」

「突然誘われれば、疑問に感じるのは自然な流れじゃないかしら。具体的な用件があるようなら、話くらい聞いても構わないけれど?」

 もちろんそんなものはない。

「学校にさ、カフェあるだろ? 女の子がいっぱいいる。あそこにさ、一人で行く勇気が無いんだよ。男子禁制って感じするだろ?」

「確かに女子の比率が高いことは間違いないけれど、男子も利用しているはずよ?」

「そりゃな。でも一人で行ってる奴はいないんじゃないか? 女の子のともだちだったり、あるいは彼氏だったり。そのたぐいしか利用してないと思うぞ」

 堀北はパレットの様子を思い返しているのか、少しだけ考える仕草を見せた。

「確かにそう、かもしれないわね。珍しくあやの小路こうじくんの意見に一理あるわ」

「でも興味はあるんだよな。だから一緒に行ってくれないかと思って」

「そして当然、他に誘う相手……は居るはずもない、と?」

「やや言い方は引っかかるが、そう言うことだ」

「断るって言ったら?」

「そりゃ、それまでだな。あきらめるしかない。お前のプライベートの時間を割いてくれと、無理強いすることは出来ないさ」

「……分かったわ。確かに男子だけで利用しにくいという話は、本当のようだし。あまり長い時間は無理だけど。それでもかまわない?」

「ああ。すぐわるよ」

 多分、と心の中で付け加えておく。これで櫛田がらみだと知られれば、オレは堀北から強く責められるだろう。

 櫛田と話せるからとかそんなことよりも、多分オレは堀北に一人でも友達が出来てくれたらと、そう思い始めていたのかも知れない。

 それにしても、説明会といいカフェといい、堀北は難癖を付けながらも付き合ってくれる。これで友達が出来ないって言うんだから不思議なもんだ。

 早速二人で目的地へと出発し、校舎一階にあるカフェ、パレットにたどり着いた。

 放課後を楽しもうと、続々と女子たちが集まってきている。

すごい人数ね」

ほりきたも放課後は初めてか? あ、そうか。ボッチだもんな」

「それはいやのつもり? 子供ね」

 おつしやる通り嫌味だったが、堀北には案の定通じないようだ。

 注文をえて、二人でドリンクを受け取る。オレは1つパンケーキも頼んでおいた。

「甘いもの好きなの?」

「これを食べたくってさ」

 ケーキそのものは好きでも嫌いでもないけど、もっともらしい理由を作っておいた。

「でも席が空いてないわね」

「ちょっと待つか。あ、いや、あそこが空きそうだな」

 二人掛けテーブルの女子たちがスッと立ち上がるのを見て、オレは足早にその場所を確保。奥側へと堀北を通す。かばんを足元に置いてに座り、何気ない様子で左右を見渡した。

「アレだよな。周りから見たら、オレたちカップルに見えたりし……ないだろうな」

 堀北の顔は無表情、というかやや冷たい感じがする。オレもこの混雑の中落ち着かないのと、これから起こることを想定して胃が痛い。

 行こっか、という声と共に隣の席の女子が二人ドリンクを手に取り席を立った。

 そしてまたすぐ、新たな来客で埋められる。それがくしだ。

「あ、堀北さん。偶然だねっ! それにあやの小路こうじくんも!」

「……よう」

 あくまで偶然をよそおい櫛田が軽くあいさつする。堀北は細めた目で櫛田を見た後、ゆっくりとオレを見た。当然これは櫛田とあらかじめ示し合わせたものだ。先に櫛田のともだちに4席分を確保してもらっておき、オレがパレットについたらくばせで合図を送りまず2席を空けてもらう。しばらくして、今度は残った隣の席を空けたところで櫛田が滑り込むというわけだ。

 これならあくまでも偶然が引き寄せた出会いにしか見えまい。

「綾小路くんと堀北さんも二人でここ、来るんだ?」

「たまたま、だな。お前こそ一人か?」

「うん、今日きようはちょっとね──」

「私帰るわ」

「お、おい、まだ席に着いたばっかりだろ」

「櫛田さんが居るなら私は必要ないでしょう?」

「いや、そう言う問題じゃないだろ。オレは櫛田とはクラスメイトってだけだし」

「それは私とあなたの関係も同じよ。それに……」

 オレと櫛田を、冷ややかな視線でいちべつする。

「気に入らないわね。何がしたいの?」

 こっちの作戦を看破しているかのような発言だった。でも、カマかけかも知れない。

「や、やだな、偶然だよ?」

 出来ればくしには、そう発言してほしくは無かった。

 どういう意味? とほりきたの誘導に気づいていないフリをするのが正解だ。

「さっき私たちが座る前、ここに居た二人は同じDクラスの女子だった。それに、隣に居た二人もそう。これがただの偶然かしら?」

「良く知ってるんだな、全然気づかなかった」

「それに放課後になって、私たちは寄り道せずぐここに来たのよ? 彼女たちがどれだけ急いだとしても着いて精々1、2分。まだ帰るには早すぎる。違う?」

 堀北は、オレが思っていたよりもずっと観察力の高い人間だったようだ。

 クラスメイトの顔ぶれを覚えてるだけじゃなく、席の状況までしっかりと把握していた。

「えぇーっと……」

 困惑した櫛田は、思わずオレの方へと救いを求める合図を送っていた。

 それを見逃す堀北じゃない。これ以上のしは余計ないらちを募らせるだけか。

「悪い堀北。ちょっと根回しした」

「でしょうね。最初から少しおかしいとは思っていたし」

「堀北さん。私とともだちになってください!」

 もはや隠すことなどせず、正面から櫛田が切り込んでいった。

「何度も言っていると思うけれど、私のことはほうっておいてほしいの。クラスに迷惑をかけるつもりもない。それじゃあいけないの?」

「……一人ぼっちの学生生活なんて寂しすぎるよ。私は、クラスの皆と仲良くしたいな」

「あなたがそう思うことを否定するつもりはない。でも、それに他人を巻き込むのは間違ってる。私は一人を寂しいと感じたことはないもの」

「だ、だけど……」

「それに、仮に仲良くなることを強いたとして私が喜ぶとでも? そんな強制されたものの中に友情や信頼関係が生まれると思う?」

 堀北の言葉は何一つ間違っていない。堀北は友達を作れないんじゃない、必要ないと思っている人間だ。櫛田の一途で真っ直ぐな思いが、堀北に響くことは無い。

「今までちゃんと伝えていなかった私にも落ち度がある。だから今回の件は責めない。だけど次に同じことをしたら、その時は容赦しないから覚えておいて」

 そう言うと、一口も飲んでいないカフェラテの入ったコップを持ち立ち上がった。

「私、堀北さんとどうしても仲良くなりたいの。なんか、初めて会った気がしないって言うか───堀北さんも、同じように感じてくれてたらな、なんて思ってる」

「これ以上は時間の無駄よ。私にとってあなたの発言すべてが不愉快なの」

 やや語気を荒げほりきたは容赦なく言葉をさえぎった。思わず言葉を飲み込むくし

 オレは櫛田に協力こそしたが、口出しするつもりは全くなかった。けれど──

「何となく堀北の考えも理解できないじゃない。オレもともだちの存在意義ってなんだろう、本当に必要なのか?って思ったことは一度や二度じゃないからな」

「あなたがそれを言う? 入学初日からずっと友達を求めていたでしょ」

「そこは否定しない。けど、オレはお前と同じタイプだよ。少なくとも中学卒業までは。オレはこの学校に入学するまで友達が出来たことがなかったからな。誰の連絡先も知らなかったし、放課後一緒に遊んだりしたこともない。完全なボッチだ」

 にわかには信じられないと言った様子で、櫛田は驚きを見せていた。

「お前と何となく会話が弾んだのも、案外そんな部分が影響したのかって思ったよ」

「それは初耳ね。ただ、仮に私たちにそんな共通点があったとしても、そこに至るまでの過程は別ものじゃないかしら。あなたは友達が欲しくても作れなかった。私は友達が不要だから作らなかった。つまり似て非なるものと言うこと。違う?」

「……かもな。けど、櫛田に対して不愉快ってのは言い過ぎだ。お前は本当にいいのか? このまま誰とも仲良くならない道を選ぶってことは、3年間一人ぼっちってことだ。それは結構苦痛だぞ」

「9年間続けてるから平気よ。あ、少し訂正するわ、幼稚園も含めればもっと長いわね」

 サラッとすごいことを口にしなかったか? こいつひょっとして物心ついてから、ずっと一人で過ごしてきたってことか?

「もう帰ってもいいかしら?」

 堀北は一度深いため息をつくと、櫛田の目をぐにとらえた。

「櫛田さん、あなたが無理に私にかかわらなければ、私は何も言わない。約束する。あなたはバカじゃないのだから、この発言の意味が分かるかしら?」

「それじゃ」と一言かけ、堀北は店を去って行く。騒がしいカフェの中、オレと櫛田の二人だけが取り残されてしまう。

「失敗、だったな。助け船出そうと思ったけど無理だった。あいつは孤独に慣れ過ぎてる」

 ストン、と無言で腰を落とす櫛田。だが次の瞬間にいつものがおをこちらに向けていた。

「ううん、ありがとうあやの小路こうじくん。確かに友達になることは出来なかったけど……でも、大切なことを知ることができたから。私はそれで十分。だけどごめんね、私のせいで堀北さんに嫌われるようなつだわせちゃった」

「気にするな。オレも、堀北に友達を持つ良さを知ってもらいたかったし」

 とりあえず、二人で4席を抑えるのは迷惑なので、櫛田のテーブルへとオレは移った。

「それにしても、驚いたよ。綾小路くんに友達がいなかったって話。本当なの? 全然そんな風には見えなかったから。どうして一人ぼっちだったの?」

「ん? ああ本当だよ。どういけたちが初めて出来たともだちだ。自分のせいなのか環境のせいなのか、いまだはっきりしない」

「やっぱり友達が出来ると、うれしい? 楽しい?」

「そうだな。わずらわしいと感じることもあるけど、喜びの方が勝ってる感じかな」

 くしは目を輝かせるようにしてがおを見せ、うんうんとうなずいた。

「ただほりきたには堀北の考え、目的がある。もう割り切ってしまうしかないかもな」

「そう、なのかな? もう友達にはなれないのかな?」

「なんでそんなに必死なんだよ。櫛田は誰よりも友達を多く作ってるだろ? 堀北一人が居ないからって、そんなに強くこだわる必要はないだろ」

 クラス全員が仲良くするに越したことは無いが、ここまで必死になることだろうか。

「私は誰とだって仲良くなるつもりだったから……。それこそ、Dクラスだけじゃなくて、のクラスの子とかともね。でも、クラスの女の子の一人とも仲良くなれないんじゃ、そんな目標は達成できないよね……」

「堀北が特殊なだけだと思うぞ。あとは、それこそ本当の偶然を待つしかないな」

 仕組んだものじゃなく、何か二人を結びつける出来事が起これば。

 あるいはその時に初めて、友達になれるチャンスが訪れるかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る