(株)馬路村迷宮商社 ダンジョンマスターの村おこしで日本激震!

谷沢憧渓

1-1 帰省と色惚けジジイ

===== はじめに =====


本作品は高知県安芸郡馬路村を題材にした筆者の創作であります。

そのため登場する人物・題材・会社・組織等全て実在するものとは関係はありませんが、歴史や家名を併せて参考にしたものはございますので、不都合な箇所がある場合は変更・訂正させていただきます。


なお土佐っぽの会話等を全て土佐弁で記したかったのですが、標準語訳が必要だったり本人の力不足のため、割愛したことをご理解・ご勘弁くださいますようお願い申し上げます。


================


俺は千頭藤四郎せんどうとうしろう、最難関ではないが東京の某難関大学の2年だ。


ちょっとした集まりなどで良く聞かれるが、「高知出身で千頭と言えば四菱財閥創業家のあの千頭か?」と。

別に隠している訳でもないから聞かれれば「是」と答えてる。


合コンなどでは友人がネタ代わりに

「彼って、四菱財閥の千頭家の長男なんだぜ」

というのはお決まりだ。


「四菱財閥」の言葉だけで可愛い女の子も沢山寄ってくるんだが、今は四菱グループだということも知らない地雷ばかりだった。

当然お持ち帰りすることもなかった(できなかった)のもお決まりを通り越して鉄板のため、「合コン召喚率学内最高」という有難くないあだ名を頂いていた。


そんな俺でも二か月ほど前だが、彼女が初めてできたのは嬉しかった。


気持ちも昂ってたんだろうな、

「将来は家の(株)馬路林業を大きくしたい!」

と会うたびに話していたが、山奥の小さな会社に失望したのか『す~っ』と、もう一度言おうか?『す~っ』と消えて行った。


そんな失恋DT真っ最中な俺だが、帰省のため羽田発高知行の飛行機の中だ。


宗一郎爺様から「夏休みに入ったんだからすぐに帰って来い」と指令が来たからだ。


三大財閥と言われた中で「人の四井」「結束の住共」に対して、うちは「組織の四菱」って言われてたそうだ。


千頭家の家長が実権社長として振るう旗の元、本社役員から傘下企業社長までが集まり一丸となって事業に取り組んでいたかららしいんだが、それを色濃く体現しているのが爺様で、九十二歳の今なお会社の陣頭指揮に立っている。


まぁ俺の両親は小さい頃に亡くなっているので、仕方ない側面もあるんだとは思う。


しかも山奥で田舎なうえに旧家なこともあって、当然だが家長の命令は絶対である。


もちろん連絡を受けたのは昨日のことだ、速攻朝一で空港に向かったよ。




俺のくだらない話に付き合ってくれてありがとうな、お陰で一時間二〇分の空の旅を終えることができたよ。


さて俺の家だが馬路村と言っても広く、魚梁瀬ダムより更に奈半利川本流沿いの上流にある。

当然だが俺の家(地元民からは御殿だとかお屋敷と言われてる)より上流に家はない、最奥ってやつだ、もちろん笑うとこじゃないぞ。


だから高知竜馬空港から家まではタクシーだと三万円コース、バスだけだと一つ乗り遅れたら四時間以上かかるし飛行機が夕方に到着したなら家に着くことは無い。

朝一で空港に向かったのも、驚かせようとこっそり帰省する気が全く無いのも理解してもらえると嬉しい。


ということで空港にはお迎えが来ている。


「若、お疲れ様でした」

「伸さん、ありがとう。これお土産、奥さんのもあるよ。ついでに源さんちの分も渡しておくよ」

「あぁもう、気ぃ使わせてすいません。さぁ、こちらです。荷物持ちますよ」

「お願いね」

住み込みの奉公人で小松伸介さんだ。


色々突っ込みたいかもしれないが、俺は千頭家の嫡男で次の跡取りだから「若」だ。

敷地内にも別棟の家が昔からあったから、住み込みの奉公人について不思議に思ったことは無かったな。


迎えの車はもちろん(株)馬路林業ロゴ入りの二トントラックWキャブだ、一時間半の道のりが軽トラでなくて良かったよ。

空港から国道55号線を室戸岬方面へ向かうと右手には青い海が広がる。安芸を過ぎて安田から県道12号線を30分も行けば馬路村だが、一度北川村を経由して再度馬路に入らないと魚梁瀬には着かない。

ダムを過ぎ魚梁瀬大橋を渡り丸山の町に至れば屋敷まではすぐだ。




門の前で俺を降ろした伸さんは、シュパっと手を上げて車を裏門へと運転して行った。相変わらずで安心した。


屋敷で出迎えてくれたのは多恵さん、両親を亡くした五歳の頃からずっと世話をしてくれてる、爺様に叱られたら多恵さんの元へ一直線が定番だったな。

ただ、いつものように坊ちゃんでなく「若様」と言われると少し照れた。


奥の間へと言うことで多恵さんについて廊下を進んだ。

多恵さんが障子の向こうに、「若様がお見えになりました」と告げると、スっと障子が分かれ上段の間に爺様が見えた。


左右には(株)馬路林業の社員であり、長年の家臣家にあたる者が居並んでいる。

維新、世界大戦等で絶えた家も有るが戦国以来の家臣団家の者ばかり、400年以上にわたって千頭本家に忠義を尽くしている事が彼らの誇り。

真剣な顔をみるにこれは何かが起きたのかと俺が慌てたのを理解できるだろうか、不調法はできない。


それ以上に驚かされたのは、上座に座る祖父の横に秘書のカタリーナさんが座っていたことだ。


淡い橙色を下地に文様をあしらった打掛にダークブラウンの垂れ髪って、確かに似合ってるよ、だけどコスプレにしか見えない。

いや、それより上段の間は秘書の位置じゃないだろ…、まさか色惚けジジイこの期に及んで親父の兄弟仕込んだのか?

それだと糞面倒なことになるのか、この色惚けジジイならまだ10年や20年は平気だろうからまさかの廃嫡とか。


いかん絶賛混乱中だ。

「爺様、藤四郎、ただいま戻りました」

もちろんこれくらいで腹の内を見せはしない。

カタリーナさんの放つジト目の恐ろしさは身をもって知ってるからなあれは人を殺せる奴だし、コスプレ外人にクラスチェンジしたからには威力も上がってるはずだ。


祖父の右手、下段の間上座に座っていたのは(株)馬路林業専務の哲郎さん。

俺の方に向き直ると、

「若様、おかえりなさいませ」

と挨拶を受けたので黙礼で返す。


目線を爺様に向けるとコスプレ外人以上の爆弾が投下された。


「藤四郎、良く帰って来た、ぞ!」


元気凛凛、隣にナイスボディの美人を侍らせて田分けたこといってんじゃね~ぞ、色惚け糞ジジイ!!

誰か俺の代わりにそう言ってやってくれ…。

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