双頭の獅子

九十九 少年

開演

双頭の獅子 

 遥か古の時代、世界は姿形も違う生物がひしめき合い存在していた。

 大きな肉体の者、小さな者、または鋭い牙と爪を持つ者、毒を持つ者、遥か先まで見渡せる者。

 それぞれが今を生き抜く為、殺し殺され、喰い喰われを繰り返す無秩序な世界。それは何百、何千年と続くと思われた。


 しかし、常に天を覆う分厚く暗く禍々しい黒に近い灰色の雲が突如として裂け、その切れ間から後光を背にそれは現れたのだ。


 山程もある巨大なからだに大河の様な長い尾を持ち四足歩行のその前脚と後脚には強靭な筋肉を纏う。そしてそれは””を持ち合わせていた。

 

 双頭の巨獣の力はそれは凄まじく、向かってくる者を容赦無く薙ぎ倒し全ての者は恐れ平伏し、遂に無秩序な世界は終焉を迎えた。


 双頭は知性を持ち合わせており後に自らを”神獣しんじゅう”と名乗り平伏した者にはその知性を分け与え多くの眷属を従え安息の地を目指すと共に、言葉を、文字を、秩序を創造した。そして荒廃の地“深根しんね”から始まり、広大な大地”狭間はざま”を乗り越え、ついに目指した光の楽園に辿り着くと”上園じょうえん”と称した。


 それから永い時の中で双頭の二つの意志は次第にその巨大な自身に窮屈を感じる様になり遂には枷となっている巨躰きょたいを捨てた。神が二つに分かれた事により今まで以上の繁栄と祝福が続く…………そう思われた。

 

 しかし、時を重ねれば重ねるほど互いの意思が食い違い衝突を繰り返していく神々。遂には互いの眷属を引き連れた神々の戦が始まった。


 戦は何百年と続いた後、勝敗を決する。

 

 勝利した片割の神は自らを”上園じょうえん”の唯一神”モルト”とした一方、敗北した片割の神は深い傷を負いながら楽園を追放され、広大な土地”狭間はざま”の果てにある漆黒に包まれ荒れ果てた”深根しんね”まで追いやられた。

 

 安寧の時が流れる中でモルトは上園じょうえんに繁栄をもたらし、深根しんねにおいやられた神は”イパ”と自らを名乗り永い時をかけ、その傷を癒し、力を蓄えていた。そして神々の戦の終焉から数百年後、満を持してイパは復讐と楽園の奪取を目論みモルトに戦を仕掛けるのであった。

 

 再び始まった神々の戦は数百年と続き、戦場となった狭間はざまは酷く荒廃。戦火に巻き込まれ人々は成す術もなく奪われ、殺され、追いやれ、嘆き、悲しみ、絶望の淵に置かれていた。だが人々の前に神にも等しい力を持つ救済の主が現れた。 


 救済の主は人を救う為、自身の命と共に”上園じょうえん” ”深根しんね”そして ”狭間はざま” を三つの世界に分かち永き戦に終止符を打たれると”狭間はざま”には人類だけが存在する事となり安息が齎された。


 こうして世界は創られたのだ。



「双頭の獅子」  コールマン著

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