1-46.自問自答を二人で行ってはいけませんか?
〇望〇
「――将にシンデレラ計画ですのね。
やはりあなたは魔法使いですわ」
病院すぐ近くの川べり。
隣に座ったソラ君はこちらを向きながら真剣に僕の話しを聞き、最後に納得したように頷きながらココアシガレットを飲み込んだ。
「初めて頂きましたけど、案外いけるものですわね。
――さて、家族に認めてもらったという一点ではソラは羨ましい限りなのですが。
何故、貴方はそんな悲しそうな顔を?」
僕は何も感じていないのに、言われ、疑問を得る。
「――どうして、皆、僕が悲しみを得ていると思うのかね?
不可解でしょうがないのだが、いつも僕が思ってない感情を想像で言われる」
「おかしなこと言うんですね? 望君は」
面白そうに笑顔で言われる。
目元はジト目、ゲジ眉は横のまま、呆れも半分と言う所だろう。
「家族に認められたかった者同士、良く判るんです
――と言いたい所ですけど、今の貴方は素面ですわ。
道化ようともしておらず、さりとて時折みせる表情の無い恐ろしい能面でもない。
真面目で深刻な顔をしていらっしゃる。
長年、欲していたモノが手に入ったのにですわ」
「そんなに変なのかい、僕の今の顔は」
「いつもみている私には判りますわ」
ソラ君は弓なりのゲジ眉で楽しそうに笑う。
「さておき、家族じゃないことを美怜さんにばらして、否定して、捨てた。
それだけじゃないですか?」
ゲジ眉が斜めになる。
「――馬鹿じゃないのですの?」
いきなりの罵倒に再び驚きを得る。
恋しているとの言葉とその対象を卑下にする行為がつながらなかったからだ。
「あぁ、馬鹿者さ。言わなくてもいいことを言ってしまった、平沼君に」
「仰ってしまったことに対してではありませんわ。
自分が捨てたくなかったことに気づかずに、貴方の悲しみを生み出しているのにお気付になられないことに対して馬鹿と評したわけですわ」
ソラ君は笑むが、ゲジ眉は真っ直ぐになった。
「美怜さんと家族じゃなくなって寂しい、それだけですよね?」
同意を促される。
どうなんだろうか、自身として自問自答するが答えは出ない。
僕は応えず、ソラ君を見るだけになる。
「それこそ、シスコンだと、好きだと、愛しているだの言っていたのに、否定して、突き放して、そしたら寂しかった。
自業自得だというのに気付いてない。いや、それを認めようとしていない。
要するに頑固な馬鹿ですわよね?」
――そもそもにそう好きだと言ったのが嘘だということは言いそびれただけだ。
僕はソラ君の言葉になぜかそう反論できなかった。
いや、理由二つ見当がついている。
一つ目は ソラ君がカウンセリングに使う際のぺー太君に被ったからだ。
ぺー太君でセルフカウンセリングする際、僕は自身の人格を投影する。
エンプティチェアの応用だ。これをすることで自問自答を他者視点で深い段階で行うことが出来、自身の感情や考えを整理することが出来る。
そして、ぺー太君を使えば、ソラ君の言葉、同じ言葉を間違いなく他人として自身に問いかける自信がある。
今のソラ君は僕、望自身と相対しているのと同義語といっても過言ではない。
ソラ君と僕が似ている、と美怜に言われた言葉が良く理解できた瞬間だった。
自分自身が彼女に似ていると言ったのも、どこかで感じ取っていたからかもしれないとも思う。
「正解ですよね。反論がありませんもの。
さて、貴方はどうしたいのですか?」
二つ目は、それが真実だからだ。
だから、僕はそれを自分自身であると投影してしまった彼女に否定を述べられないのだ。
「もう一本、頂きますわよ」
無言でいたらココアシガレットの箱を奪われた。
一本を取り出し、ガリガリと噛み砕いていくソラ君。
何というかお嬢様っぽいというより、野性味が溢れている。
まるでライオンが栄養を取るために獲物に食らいつく様子を思い起こす。
「ようは自分の責任を美怜さんに感じて負い目になっているだけですわね?」
「判ったように言うね、君は」
「反論がありませんもの。
ソラとしましては無口に力なし、鉄則ですわよね?
――反論はありますか?」
「――無い、きっとそうなのだろう。
今、僕は確かに欠けている」
深呼吸し、認める。
するとソラ君の眉毛が満足だと跳ね上がる。
「その欠けているのを代わりにソラで埋めて見せますわと言えないのがソラのお人よしですわね。
傷の舐め合いだけで相手を振り向かせようとするのは好きではありませんもの」
「君はやっぱり似ているね、僕に。
僕も単純な傷の舐め合いを求めてはいない」
美怜と喧嘩した際に言った僕自身にソラ君が被った。
傷の舐め合いだけで家族は求めていないと美怜にそう言ったのは確かだ。
「その上で問います、貴方はどうしたいのですか?」
問われ、僕は手を見る。
欠けたのは確かにそれだ。そして、その手を握る。
「手の寂しさを無くしたい。美怜の手を取り戻したい。
そして美怜との三年間の家族生活をこれからも送りたい」
「なら、それをするためには?」
「美怜とのごっこ遊びを取り戻す。
――でも、それはムリだね、僕は彼女を捨てたんだよ?」
ぺー太君に説明するように僕は述べた。
状態の回帰が答えだ。
そうすれば確かに僕は美怜の居た生活に戻れるとそう思ったからだ。
同時に、僕の罪、心懸かりに気付き、露出することが出来た。
「それは解決策ではなく、ただの結果的な状況ですわ。
出来ないんですの?」
明確な挑発だ。僕でも自身にそうする。
だが、僕は家族に対して不義理な事をしたくない気持ちが残る。
だからそれを素直に吐き出す。
「――義理の家族になったから、そう言って手の平を返せばいいのかね?
否、そんなのは家族ではない。
間柄はそうでも、そんなものは家族という存在ではない」
「家族に理想を抱きすぎて溺れておられますわよね。
そこの背景も今度お聞きしたい感じがありますが、さておき」
ソラ君は僕から顔を逸らし寂しそうに川を眺め、何かを悟ったかのように言ってくれる。
「ソラは半分は血のつながった家族、リク……妹、両親、親戚などがおりますが、
――誰もがソラ自身を見てくれず、妾の娘であるとしてしかみてくれません。
家族なんてそんなものですと諦めてるのがソラです。
認めて欲しかったけど、無理でした。
だから言いました、羨ましいと」
それはソラ君自身の感情が乗せられた言葉だと気づく。
ゲジ眉に怒りと哀しみを浮かべたまま、僕へと視線を向けてくる。
場違いだとは自覚しているが、その彼女は儚く、小さく見え――庇護感を覚えた。
「――話が脱線しましたが、そんな血のつながりなんてどうでもいいんですわ。
今、どうしたいかですから――ソラはソラを理解してくれた望君のためになりたい」
そして彼女は再び、僕と相対する。
ゲジ眉が整う。
「望君は言った。
美怜さんの手を取り戻し、家族生活に戻りたいと。
それが一番上に来るはずなのに、家族の定義に囚われていますわ。
優先順位を間違えていらっしゃる」
ソラ君はこちらにココアシガレットを口に刺し、入れてくる。
僕の脳に甘みが与えられ、頭が回り始める。
「そもそもに貴方の求めている家族に書類上や血縁上や名目上のことなんて、必要あるのですか?
ソラの形だけの家族よりも貴方達二人のほうがよっぽど家族らしい。
ソラはそう嫉妬していましたのに――貴方の気持ちはどこですか?」
「判ったように言うね、君は」
まるでぺー太君を使った時のように、完全に自身の中で整理がついた。
だから感謝をこめて言う。
「本当に僕と君はよく似ている。
当然、僕は彼女との家族計画を続けたい。
そこに家族の在り方を気にしていた僕は本当に馬鹿だったね、ありがとう」
「いえいえ、ソラは望君の手助けをして差し上げただけですわ。
自身でもきっと同じ答えを見つけられたかと」
言葉とは裏腹にソラ君は嬉しそうに微笑んだ。
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