1-40.体育祭。
○望○
「美怜大丈夫かい?」
「うん、大丈夫だよ。痛くもないし」
そんなわけで体育祭、当日。
美怜が玉入れの競技から戻ってくるので紙の日傘をさしてやる。
学校側に許可は取ってある。ヌカリはない。
さておき、美怜は紫外線に強いタイプのアルビノだが、やはり常人よりは弱い。
今日は薄着でなおかつ一日中外にいることになる。
この前、一人で出歩いていた時は長袖だったし、汗で日焼け止めも落ちなかっただろうと思う。
それでも一日、酷い目にあっていた。
だから、タオル、上下のジャージ、帽子、そして代えの運動用の強めの日焼け止めを渡し、美怜の頭にポンと手を置いてしまう。
「えへへー」
何故だか判らないが、ふと、美怜の頭を撫でていることが増えている気がする。
自分が美怜を兎扱いしているのかと思うと割りと納得できる。
ペー太君にするように愛でているのだ。ぺー太君は茶色の兎だが。
とはいえ、美怜も嬉しそうに笑みを向けてくれるので悪い事ではないはずだ。
「まぁ、目立つわね、このクラスというか、私の周り数人」
僕の前に右前に座っていた小牧君がそう言ってくる。
「九条さんのことを聞かれたのが十二回、平沼さんのことを聞かれたのが三十一回、鳳凰寺さんのことを聞かれたのが二十五回、水戸が七回。
どういうことよ、全く……私は皆のマネージャーじゃないっての!」
「まぁ、野球部マネージャーの小牧君、内面や技術面を映す鏡が現実に無いことを今ほど悔やんだことはないね?
そうすれば君も僕らの仲間入りさ!
過去の武勇伝は聞いたがね、全く、恐れ入るね?」
武勇伝の話は割愛するが、小牧君は拳を握りながらもそれをぶつけてこない。
というより、彼女が暴力を水戸以外にぶつけている様子を見たことが無い。
ある意味、彼女彼らの関係の現われなのかもしれないね、うん。
「まぁ、望君、能力や技術が有っても印象が普通というのは稀有なんですから」
「この二人嫌ぃいいいい」
ソラ君の追撃が美怜とは反対、僕の左側から聞える。
そして居ない水戸の代わりか、美怜に助けを求める。
「二人ともいい人だよ?
言動や行動が何処と無く狂ってるだけだから」
「そんなに褒めないでくれたまえ」
「ふふふ、私はいい人ではありませんよ?」
小牧君が何とも言えない表情になってくれる。
美怜に左二の腕を抓られた。
やりすぎたかもしれない、反省。
「望――着いてきて、日焼け止め塗りたいから。
そしたら救護用テントにいくよ。ソラさんは望の代わりに居て下さいね? お願いしますよ?」
美怜にそのまま引っ張られ校舎の中へ連れ込まれる。
「駄目だよ――あんまり、からかっちゃ」
美怜が眉毛を跳ね上げながらそう言って来る。
「今まで親しい友人というものが居なくてね。
あまり他人との距離感が判らないのさ。だから、水戸基準で接していた訳だが?
彼はこんな僕でも気兼ねなく話してくれるし、話せるから、これが友達なのだろうと思うんだが――違うのかね?
そして小牧君は水戸の友達で君の友達だ。これが普通かと思ったのだが?」
「――望、薄々思ってたんだけど、私と違う意味でコミュニケーション障害だよね?」
「その通りだから困るね、うん。他者の気持ちに共感出来ないんだ」
流石に一ヶ月も一緒に暮らしていれば判るらしい。
隠すことでも無いので、正直に答えた。しかし、それに驚いた様子を返してくるのはどうなんだろうか。
「自覚症状あったの……?」
「自分の弱点ぐらい知らなくてはね?
ただ今まではそんなこと気にしなくても良かったのでね
――羨まれ、妬まれ、他人の手の届かない存在になれば、共感は必要ない。
自分のやりたい事、やらせたい事は扇動すれば問題なかったのでね。
僕が羨望されたい欲望の理由の一つだね。友達いない暦はこの前まで=年齢だったのさ……はは」
「ごめんごめん! トラウマ掘ったみたいだから気にしないで!」
「大丈夫さ、はは。
僕は後悔なんかしてないし、こうする必要があっただけさ、うん」
そう言うが、寂しさ覚える自分が居るのは確かだ。
友達は確かに居なかった、利用したり利用されたりはあったが、それだけだ。
一番、初めの場所ですら、僕には遊ぶ相手が居なかった。
いや、そうでもないのかと浮かぶは、黒髪の女の子と女性――
「先ずは望は学校生活を楽しむべきだよ。
足長おじさん……九条さんに認められるとか、周りに圧迫されないとか、周りとの付き合いを楽にするためとか関係なく」
美怜の言葉に思考を切る。
そして、返答に窮した。
「美怜はどうなんだい? 楽しめてるのかい?」
「――楽しいんだよ。
望との喧嘩から、パーッと世界が開けて。
今まで自分がやれなかった――やらなかったことが出来るようになって。
体育祭にも参加出来た。青春だよ?」
美怜の白い眉毛が弓になる。
「望は楽しくない?」
「どうなんだろうね――水戸は弄っているのは楽しいし、敵対設定もソラ君だけだから楽なのは確かなのだが」
「もしかして、前に怖がらせたのもそれだよね?
ソラさん、望を本気で好きだよ?」
「知っているさ……なんで驚くのかね?」
「いやだって、どうしてもそういう態度じゃないし」
心外である。とはいえ、事実でもある。
「どうしても身構えてしまってね。
好意は素直に嬉しいけど、慣れてないし、どう彼女を扱えばいいのか判らないものでね?
水戸と同じように扱うのも変だし、とりあえず、カテゴリー・エネミーにしておけば緊張感を抜けないのでね?」
美怜がこちらを変なものを見るもののような目で見てくる。
「私に小牧さんがいたことを今、凄い感謝したよ。
本当に一人だったら、今の望みたいな人になっていただろうし。
なんで敵対認識しか出来ないの? アクティブ・エネミーなの?」
そう言いながら笑い出す美怜。
「羨ましいよ、君が」
それは色々な意味で本音だ。
僕には出来ないことが出来、僕には手に入らないものを持つ資格は彼女にはある。
「望が私を素直にしてくれたように、私が望にも青春をあげるよ。
私も今まで私も青春なんて送っていたかどうかは怪しいけど、一緒にやっていければと思うよ」
「強くなったもんだね、ホントに」
「望が守ってくれるから安心してるだけだもん。トラの威を借る兎さんだよ?」
「僕もたいがい兎なのだがね? 白いし」
そして彼女は女子更衣室の手にを掛け、何かに気づいたようにこちらを振り向く。
「居なくならないでよ?」
「大丈夫だ
――心配なら更衣室の中に入ろうかい?」
「この時間なら他に誰も居ないだろうし、私なら望になら見られてもいいよ?
家族だし――あ、今度、お風呂一緒に入ろうか? 家族なら問題ないよね?」
言われ、どうしたものか、からかわれているのか、本気なのか、読めない。
考えているうちに美怜の白い四肢に目が行きそうになる自分がいたので頭を振る。
それに対し、笑みを浮かべる美怜の意図はやはり読めない。
「……さっさと行って来い」
とりあえず、呆れの表情をかぶりそう言ってやる。
「はーい」
美怜の後姿を扉の向うに見送り、扉の反対側、窓側によりかかり待つことにする。
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