第10話 また死んじゃいました!



 僕は一周目のときのように錯乱していたわけではなかったので、別段安全に迷宮のボス部屋まで辿り着いていた。


 回復薬であるポーションの瓶を呷って体の様子を確認するも、怪我は少し擦りむいたくらいであった。その傷も、今の回復で修復した。


「よし、驚くほどに順調だな」


 持ち込めるポーションの数には限りがある。

 バックパックには倒した魔獣からドロップする魔石を回収しないといけないし、腰につけたポーチにありったけ詰めるにしても、十個が限界だろう。


 手元に残っている回復薬の数は八。

 ここに来るまで、一度ブラックウルフに受けた傷を修復したのに一本。そして、ボス戦前にと飲んだ今のでもう一本だ。

 つまり、かなり余裕をもってここまで攻略しているというわけだ。


「じゃあ、行くか!!」


 だから僕は、特段悲観することもなく、かといって油断するつもりもなく、ゴブリンたちの王が座る玉座へと刃を向けたのであった。



 ―――



 戦いは熾烈を極めた。

 お互いボロボロで、ゴブリンキングに至っては、左の腕がげている。

 僕は体中に手下のゴブリンにつけられた切り傷や、殴打されたことによる打撲があったが――、


「……ごくっ」


『ギャッ!?』


 最後の一本であったポーションの苦くも酸っぱくもある不思議な液体を飲み、それらの傷も完全とは言い難いが修復されていく。


 これで、僕の優勢。

 いや、勝勢だ。


(これなら勝てる!)


 そう思ったとき、向かい合う、僕の五倍はあるだろう緑の巨体に異変が起きた。


『ギ、ギャァァァアアアアアアアアア!!!』


「――くっ!」


 奴が肌を赤黒く変色させ、地を蹴り突進をしかけてきたのだ。

 僕は避けることもできず、咄嗟に右手に持っていた剣で受け止める。

 が、そんなもので受けきれるはずもなかった。


 ドッガァァアアア!


 奴がかつて座っていた玉座の前まで吹き飛ばされた僕は、しかし、まだ冷静であった。


(受け身を取って、すぐに立ち上がれば反撃できる!)


 そう思い、衝撃をできるだけ受け流し、立ち上がろうとしたが――、


「……え?」


 僕が立ち上がることはできなかった。

 何か重いものが頭に乗っかったと思ったら、僕は地面に磔にされていたのである。


「い、あ……っ!?」


 足は動く。

 だが、両腕には無数のナイフが突き刺されていた。


『『『『『ゲギャギャギャギャギャギャッ!』』』』』


 僕を見下ろしていたのは、何十体ものゴブリン共。


「くそ、なんでお前らが……!」


 手下は先に全員倒したはず。

 そう思ったが、ピラピラという音が聞こえ、僕はハッとして首を捻りながら後方を見た。


「……なるほど、ね」


 ――そこには、巨大な玉座の下から出てくるゴブリン共の姿があった。


 見た目からして、通常のゴブリンよりもさらに背の低い、子供ゴブリンとでもいったところか。


「まさか、椅子の下に隠れてたなんて……くそっ、道理で胸騒ぎがしたと思ったんだ!」


 スキルの『危機察知』は常時発動していた。

 それはゴブリンキングの攻撃があるからとばかり思っていたが、奴らが隠れていたというわけだ。


『『『『『ゲギャギャギャギャギャギャッ!』』』』』


 子ゴブリン共は嗤いながら僕の腕をナイフで潰すと、僕の腹を裂きだした。


「ぁっぁあああああああ!!」


 激痛が奔る。

 だが、逃げることはできない。


 そしてそこに、巨大な絶望が近づいてきた。


『ギャッギャッギャッギャッ!』


「ち、くしょう……!」


 奴が棍棒を振り下ろす。

 グチャッという音が聞こえ、僕は意識を失った。



 どうやら僕は、二度目の死を迎えたようである。


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