第8話 『死に戻り』、その単純なる活用法はこれです!



 衝撃の新スキルを確認して、僕は頭を切り替えるためにシャワーを浴びた。


 体を洗ってさっぱりした僕は、黒いインナーだけを着てベッドに仰向けになりながら、天井を眺める。

 左の手を部屋の電気にかざしていると、現実感が失われていくような感覚があった。


「……『死に戻り』、かぁ……」


 僕は指にはめられている骸骨を見ながら、思わずそう呟いた。

 まじまじと見ると、燃え盛る炎の前に髑髏の顔というデザインだった。

 黒いけどメタルで光沢があり、ギラギラと輝いている。

 中々イカスぜ。少年心を擽られるぜ。


 ……って、そんなことはどうでもいいんだった。

 問題は、僕に『死に戻り』の力が宿ったということだ。


「まさか僕が宝具使いになるなんて、考えもしなかったな……。それも、呪宝具、だなんて」


 宝具使い。

 その文字の通り、宝具を扱う者の総称だ。


 宝具というのは、人間が逆境に立たされた時、それを跳ね返すだけの力をもって覚醒する武装のことである。

 宝具は所有者の魂を具現化したものとされ、個々により性能は異なるが、その者にとって最大級の切り札になると言われている。


 その中でも、呪宝具は特別だ。

 呪宝具は宝具なんかよりも圧倒的な力や能力を有している代わりに、何らかのデメリットを抱えている、まさに呪いの宝具なのである。


 今回のデメリットとしては、「外せない」ことがデメリットと言えるだろう。


「ユウキの趣味には合わないかもしれないけど……」


『死に戻り』の力を得た、ということは。

 文字通り、『死ぬ気』で戦うことができるということ。


「これで、僕はどれだけでも強くなれるんだ……!」


 僕は噛み締めるように呟いた。


 僕達が成長するために必要なもの、それは『経験』である。

 経験を積むことで、僕達は成長し、スキルを得るのである。


 特に戦いにおいて最も重要な経験、それは『殺害』だ。

 スキルの向上はもちろん、もっとも戦闘において重要になる『魔力値』のランクは、殺しを行うこと以外では中々向上しない。


 というのも、魔力値というのは、魂の格によって決まるからである。

 戦いを重ねて、勝利するたび、僕達は、その戦った相手よりも強いのだという自己認識をすることができるようになる。倒した相手よりも、自分の方が格上だと認識できるようになる。


 確かな『経験』を持って、「相手よりも自分の方が強い」と魂が認識した瞬間。

 そんなとき、魔力値は上昇するのである。


 魔力値というのは、戦いにおいて最も明確な強さの指標だ。

 魔力は魔法の行使だけでなく、身体能力の強化にも扱われるからである。

 つまり、魔力が多く、強い方が、実質的な戦闘力も高いということなのである。


 僕は今までアクセルやユウキが前線にいたから、あまり実戦で大量に経験を積むということをしてこなかったと思う。


 剣術や魔法の訓練はしていたし、自分でも『自分なりに』、『できるかぎり』一人でクエストをこなしたりして経験を積んできたけれど、足りなかったと思う。


 でも。このスキルさえあれば……。


「『死に戻り』ができるとするなら……」


 僕は無限に魔獣を殺すことができる。

 死んでも生き返って、経験を積み続けることができる。

 僕は無限に強くなれる、というわけである。


 とはいえ、時間は有限だ。

 勇者パーティが招集されたりして、この街を出る前に強くならなければならない。

 そのためには、迅速に、『死ぬ気』で魔獣を屠り続ける必要があるというわけだ。


「……よし、ボーっとしている場合じゃないな」


 僕はいつもの動きやすい皮の服に袖を通して、自室を飛び出した。

 向かう先は、先ほど出てきたギルド会館である。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る