第14話 やり直してもいいですか⁉︎

 アカネは頬杖ほおづえをつきながら、死後の余韻よいんにひたっていた。


 生まれたのが3分前。

 就職したのが2分前。

 結婚したのが1分前。

 あっさり死亡して現在にいたる。


 細くて短い人生だったなぁ……。


「俺のターンだな。山札からヤンデレカードをドロー。……配偶者がチケット転売でもうけた。10,000円もらう」

「はいはい、10,000円ね」


 銀行のお金をイブキに渡す。


「次はミクのターンです。山札からヤンデレカードをドロー。……配偶者が闇ショップで青酸せいさんカリを買った。30,000円はらう」

「はいはい、30,000円ね」


 ミクのお金を銀行に入れる。


 これってクソゲーだな、と思ってしまう。


 リタイアしたプレイヤーの楽しみってなんだ?

 みんなが死ぬ順番を予想することか?


「もっとです! もっと快楽スリルがほしいです! 死に近づけば近づくほど生を実感できます!」


 普通に考えたらミクである。

 包帯を巻いていて、サイコ発言する女子ってのは、エンディングまで生き残らないと相場が決まっている。


「なるほど。死を意識することにより、生命の大切さを再認識するための遊びか」


 イブキは天然っぽい。

 こういうキャラは銃弾とか食らっても死なないイメージがある。


大賢者オラクルと書かれたマス目に止まったぞ」

「あっ……やったぁ!」


 アカネの目が輝いた。


大賢者オラクル』……『死亡中のプレイヤーは150,000円はらうことで復活できる。所持金が足りない場合は借金できる』


「はらう! はらう! 命より大切なお金なんて、このゲームには存在しないからね!」

「いいのですか、アカネちゃん。もう一度死ぬ未来が待っていますよ」

「いいんだよ。もう一回死ぬのもこのゲームの醍醐味だいごみだからさ」


 というわけでアカネ復活。

 ふたたび三者のレースに戻った。


「俺は山札からヤンデレカードをドロー。……ん? なんだ、このカードは?」


 めくったヤンデレカードには泥棒のイラストが描かれていた。


強盗シーフ』……『配偶者が暴走した。任意のプレイヤーから150,000円奪う』


 ミクとアカネに衝撃が走る。


「あわわわわわっ⁉︎ 奪うならアカネちゃんにしてください! ミクは次のターンで家を購入したいのです!」

「いやいや⁉︎ 私も150,000円はらったばかりだから! 借金地獄じゃん!」

「こういう場面では、お姉ちゃんが模範もはんを示すべきかと……」

「都合のいいときだけ妹ぶりやがって……」


 ミクを見つめた。

 涙腺るいせんをうるうるさせて、いまにも泣き出しそう。


 アカネを見つめた。

 何かを悟ったようなうんざり顔をしている。


「いいですよ、私で」

「すまない、鬼竜、奪われてやってくれないだろうか?」

「恨みっこなしがゲームの基本ですから」

「恩にきる」


 アカネ、銀行から追加の借金をすることに。

 いくらゲームとはいえ、未成年の女の子から巻き上げるのは心苦しい。


 そして数ターン後。


 アカネがヤンデレカードをめくる。

 そこには誘拐犯のイラストが描かれている。


人さらいキッドナップ』……『配偶者が暴走した。任意のプレイヤーから子どもを一人奪う』


 ミクに衝撃が走った。


「あわわわわわっ⁉︎ ミクから子どもを取り上げないでください! この子は愛の結晶なのです!」

「おいおいおい! 院長さんからなら奪ってもいいのかよ!」

「そういうわけではないですが……」

「ふ〜ん……」


 ミクが涙腺をうるうるさせている。

 この表情をされると、どうも気勢をがれてしまう。


「鬼竜、俺を選ぶといい。さっきの穴埋めということにしよう」

「すみませんね……院長さんに気をつかわせてしまって」

「気にするな。ゲームだから気楽にやればいいさ」


 イブキのプレイヤー駒からピンを引っこ抜き、アカネのプレイヤー駒に突きたてる。


 なんだ、この犯罪ゲーム。

 やっぱりクソゲーじゃねえか、という認識を強くする。


 さらに数ターン後。

 あっと一歩でゴールという位置までやってきた。


「ミクのターンなのです!」


 めくったヤンデレカードには分岐点のイラストが描かれていた。


『究極の二択』……『配偶者のバースデー。しかし、仕事が立て込んでいる。家族を優先して帰宅する? 仕事を優先して残業する? ルーレットを回して決めよう』


「ふっふっふ……ミクを殺そうったって簡単にはいきませんよ……仕事を捨ててでも家族を優先しますから」


 運命のルーレットに手を伸ばした。


「ふんぎゃ⁉︎ 仕事を優先してしまうとは⁉︎」


 逆上した配偶者に絞め殺されてしまった。


「うぅぅぅぅぅ〜」

「えっ……マジ泣きしてんの? それとも嬉し泣き?」

「あっと一歩……あと一歩でゴールできたのに……こんな終わり方、あんまりです」

「うわぁ……マジなやつだ……闇のゲームとか抜かしたやつが泣いているわぁ……」


 見かねたイブキがこほんと咳払せきばらいする。


「まあ、もう一回ルーレットを回したらいいのではないだろうか」

「よろしいのですか⁉︎」

「鬼竜さえよければ」

「まあ……たかがゲームですから……」


 ミクはルーレットを回しなおす。

 しかし相変わらず絞め殺されてしまう。


「もう一回いいですか⁉︎」

「俺は別にいいぞ」

「ミクっちの気がすむまで回しなよ」


 こうなったらムキである。

 けれども、何回やっても、何回やっても、なぜか殺されてしまう。


 とうとう泣きながら笑い出してしまった。


「あはっ……あははははっ……これは確実に呪われていますねぇ……うひひひひぃ……この絶望感がたまりません」


 15回目でようやく生還したとき、目から光が消えており、廃人はいじんの顔になっていた。

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