ヤンデレ大戦争!

ゆで魂

第1話 ようこそヤンデレ島へ

 東堂とうどうイブキはまったく動けない状況におちいっていた。


 顔には目隠しをされ、手足は椅子に縛られている。

 上半身には教官服を着ているものの、下半身のスラックスが奪われている。


 五感に神経を集中させてみた。


 少女がひとり。

 息づかいで立っている位置が分かる。


「そこにいるのは西園寺さいおんじミクか?」

「ご名答です。さすが東堂さん。目隠しされているのに分かるなんて超人ですね」


 トコトコと足音が近づいてきて、イブキの目と鼻の先で止まった。


 お人形のように華奢きゃしゃな少女がこれをやったのか。


 信じられない。

 きつねにつままれたみたいだ。


「西園寺がすごいのは理解した。悪いことは言わないから、すぐに解放して、ズボンを返してくれないだろうか」

「おもしろいです、東堂さん。ますます好きになりそうです」


 ミクの様子がちょっとおかしい。

 苦しそうにはぁはぁとあえいでいる。


「これから東堂さんの遺伝子をもらいます」

「すまん……西園寺が何をいっているのか、うまく理解できないのだが……遺伝子といったか? それはDNAのことを指しているのか?」

「そうです。子種をもらいます」

「……それは事案だな」

「クスクス……事案ですね」


 シュルシュルと衣擦きぬずれの音がする。

 ミクが服を脱ぎはじめたのである。


「おい!」

「もう手遅れですよ」


 想定外のハプニングに心臓がピッチを上げた。


 かよわい娘を相手に、教官が関係をもったとなると、醜聞しゅうぶんどころの騒ぎではない。


 きっと炎上する。

 メディアに叩かれる。


「なあ、西園寺。考え直してくれないか? 男の子種なんて、女子中学生が目にして喜ぶものじゃない。三日くらい飯がのどを通らなくなっても知らないからな」

「ミクは東堂さんの赤ちゃんがほしいのです。出会ったその日に結ばれるなんて、素敵だと思いませんか?」

「赤ちゃんが目当てなのか? その若さで子づくりの知識があるのか?」

「当然ですよ。若い女の子だって知識欲は旺盛おうせいなのです」

「まいったな……」


 縛られている理由に合点がいき、イブキはがっくりと首をたれる。


「東堂さんは子種の提供を拒めません。ミクがありがたく頂戴ちょうだいいたします。東堂さんのDNAとミクのDNAが一つになるのです。これって奇跡だと思いませんか? 想像したらワクワクしませんか? 一緒に幸せ家族計画を考えましょうよ」

「そういうのは長年付き合ってきた男女が相談して決めることではないだろうか?」

「どうして嬉しそうじゃないのですか? 東堂さんはミクが気に入らないのですか?」


 入所者のデータを思い出す。

 西園寺ミク、まだ14歳だったはず。


 むさ苦しい男子校を卒業して、自衛官として鍛えてきたイブキにとっては、一輪の花のようにまぶしい乙女といえる。


「俺のことが好きなのか? だとしたら、いつから?」

「全部をあげたいくらい愛しております。はじめて肌と肌が触れあった瞬間から、東堂さんのことで頭がいっぱいなのです」

「肌と肌が触れた……つまり握手したときか」


 少女から伝わってくる感情は本物。

 告白じみたセリフも、服を脱ぐという行為も、愛情ゆえのアクションだろう。


 けれども、夕食を囲みながら会話したとき、少しも変わった様子はなかったはず。


「西園寺が幸せな家庭を切望しているのは十分に理解した。協力できることがあれば、この東堂イブキ、いかなる努力も惜しまないつもりだ」

「ミクも手荒な真似はしたくないです。私が下半身のお世話をしますので、東堂さんは体から力を抜いて、そのまま座っていてくださいね」


 ミクが恋人のように抱きついてくる。

 腕をんでみたり、胸板に触れてみたり、そのたびに甘ったるいため息をつく。


「すごいです……抱かれたいです……」


 ダビデ像のようにたくましいボディに感動しているようだった。


「ようこそ、ヤンデレ島へ。歓迎の意を表して、ミクが東堂さんの奥さんになってあげます。記念すべき初夜を一緒に楽しみましょう」


 どこで選択を誤ったのだろうか?


 イブキはこの島に上陸してからの記憶を頭の中で再生してみた。

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