欲しがりさん
作:蜜売家偽薬
A「ちょっとすみません」
B「はい、なんでしょうか?」
A「私に足をくれませんか?」
B「足を……?あなたはなにを言っているのですか?あなたのその腰の下には、立派な、すらりと美しい足が繋がっているではありませんか」
A「私は自分の足が欲しいのです。これは私の足ではありません」
B「だったらそれは誰の足だといのですか?」
A「この足は、電車に走らされ、仕事に歩かされ、男性に覗かれ、いたぶられ………私の足は誰かと共有している有機物なのです」
B「そうは言っても、あなた。だいたい、私があなたに足をあげるとして、私はどうやって街を歩けと言うのですか?」
A「足などなくても、今の技術では街を歩くなど容易ではないでしょうか」
B「だったらその素晴らしい技術で、君の行きたい場所に行けばいいではないですか」
A「違うのです。私は自分だけの足が欲しいのです。機械などではなく、血の通った、私だけの、私のためだけの足が。」
B「つまり、あなたは足を手に入れ、私は機械で街を歩けと。それでは私には損失しかないではないか!」
A「あなたは歩ければそれでよいのでは?私は足が欲しいのです。その暖かくて、温もりのある足が」
B「確かに私にとって足は歩くものだ。しかし、足の方が機械より便利であることは変わりがない」
A「では、お金を差し上げます。あなたが損ではなく得をしたと思えるほどのお金です」
B「いくらだい?」
A「いくらでも」
B「いくらでもかい?」
A「ええ、あなたが必要なら、それだけのお金を差し上げます」
B「わかった。今の言葉、忘れるなよ」
A「ええ、もちろん」
B「……ところで、お前の今の足はどうするんだい?」
A「私だけの足を得た暁には、この今の私の足は私ではありません。だから私は今の私の足は手放します。もうこの足は『この足を共有していた誰か』のものです。よろしければ、あなたが元々私の足であったものの腰から上になっていただいてもよろしいでしょうか?」
B「いや、私は自分の足でない有機物を土台にするのは気味が悪くってごめんです。自分以外の人の足になるくらいなら、義足でも車椅子でも、そういう無機物の方が安心できるというものだよ」
A「では今後ご都合のつく日をこちらの連絡先までお伝えください。その際に、あなたの足……いえ、私の足をいただきに参ります」
B「ああ、一つ質問があるんだ」
A「なんでしょうか」
B「あなたどうして足が欲しいのですか?」
A「どうしてって、簡単ですよ。腕を捜しに行くのならば、まずは足がなければいけませんから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます