空の青に染まれば

月宵さとね

空には青が

目覚まし時計が怒鳴り、起きねばと起きる朝。

夢現でぼやけた視界には、目覚まし時計が8時を示しているのがうかがえる。

もはや日課である「おーっとこれは遅刻だ。やばい」などと台詞を吐き捨て、

急いで着替えと不十分な準備をし、扉のノブを捻る。

リビングのある1階に急行したら母の呆れ声が聞こえる。

しかし母は優しいので、朝食を用意しておいてくれる。

大食い選手の如く朝食を食べ終え、凄まじき風の如く玄関へ急行した私の後ろで

母の「いってらっしゃい。気を付けてね」が背中を押す。

第2のノブを捻りながら「いってきまーす」と放ち、外界に出た。

寝癖そのままに走る私を見慣れた近隣住民が「おはよう」なんて自転車に乗って、

優雅に言ってくるので、心の中では嵐が吹き荒れたが、笑みを浮かべ返事を返す。

満足したのか「気を付けろよ」なんて言って、追い越された。

あの近隣住民もとい陽気な爺さんは何者なのだ。

なぜに80歳超えるご老人が、あんなに快速で自転車を操縦できるのか。

そんな疑問の途中、第1の関門が立ちはだかった。推定傾斜角30度の坂である。

あの爺さんはここを通過できているのだ。冗談ではない。

第2の関門に備え、体力は残しておきたい。とか思いつつ、時間が少ないので

全力で走るこの時は嘲笑されても反論の余地なし。さらば言い訳。

頂まで辿り着いたら後はダイビングだ。

超高速回転の脚は自分でも笑ってしまうほどである。

体力の消耗はかなりだが、だてに遅刻している人間ではない。

日々鍛えている成果は発揮されている。問題なし。

平坦になり再び加速するが、見てしまったのである。

猫が木から降りれなくなっているのを。これは非常時である。

すぐさま救助へと向かい「こっちだよ」と腕を広げる。

黒い毛がなびく。私は見事にキャッチした。

その猫は野良らしく、その場で別れを告げた。

大幅なロスタイムである。しかし1日1善は果たした。文句は受け付けない。

個性溢れる家が並ぶ住宅街を通過すると、第2の関門が見えてきた。歩道橋である。

おびただしい数の階段が闇のオーラを発している。

しかし後少しだ。ここで頑張らずしていつ頑張るのか。

現在8時15分、残り15分以内に教室に着ければいい。

今日こそは遅刻をしない。これは絶対だ。

かつて歩道橋で、これほどまでに高速で脚を動かした人物がいるだろうか。

もはや何かの競技である。その独走選手である。

第2の関門を無事クリアした。体力は限度に近づく。

ようやくの昇降口。靴を履き替え、すぐさま教室へ。

さあ感動の瞬間だ。ゴールへもう少し。もう少し。

そしてついにゴール。チャイムは鳴らない。遅刻ではない。

クラスメイトは唖然としていたが、気にすることではない。

窓際の席に静かに座った。そして静かに勝利を味わった。

窓の外、空はとても綺麗な青だった。

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空の青に染まれば 月宵さとね @tukiyoi

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