ことの始まりは優雅に
ことの始まりは優雅に
始まりは、なんてことない日常だった。
木造の校舎は慎重に歩かないと足音がして、すぐに他の奴に聞かれちまう。
姿勢を低く保ち窓枠の下に隠れ忍び足で廊下を横切る。
今は社会科の授業。
アゴ髭をさする先生の退屈な講義が廊下まで漏れた。
「我々の街、ユウガ・エスニシティは切り立った崖に都市を形成しており、その高さは約一万メートル、幅約三千メートル。総人口は五十万人、人口密度は一キロメートルあたり四二三七人となります。産業は主に機械からなる製造、農業、養殖、繊維加工など様々で、全て市内で
講義に集中する教師と授業に注意を向ける生徒。
誰にも気づかれることなく忍ことが出来る。
こんな調子でやり過ごして行くと、目的の放送室に辿りつき鍵のかかったドアノブを足で蹴って叩き壊す。
木の扉だからドアノブは壊れやすい。
物音を先生共に聞かれてないか、周囲に気を配った後、室内に入り中の放送用機材へかじりついた。
機材のスイッチを入れて電気が通電しているか確認。
ふと、窓に映る自身の姿が目に止まる。
赤い紐をポケットから掴み、緑色の髪を頭の後ろで縛って整え、身だしなみを気にした。
縛りあげた髪はヤシの木のように頭の後ろで広がり、前髪を針ネズミのように尖らせる。
派手に暴れるんだから一応、見栄えよくしとかないと。
尖った前髪が扇型に広がってるので、エリマキトカゲとバカにされるが、やっぱこれぐらいエッジが利いてねぇと。
白いシャツの上から着た青いベストを引っ張り服装を整え終えると、機材のつまみを最大音量まで押す。
校舎内に甲高いハウリングが響き渡る。
今ので注目集めたろ? じゃぁ俺の声を聞きやがれ!
『ぁ~あ~……教師諸君、聞こえるか? この放送室は
今頃、職員室は先生共がマヌケ面で俺の声を聞いて、生徒指導と体育の先生が慌てて放送室に向かってるとこだな。
時間はあまりない。
『生徒諸君、俺達は大人達に騙されている! 同じ教室で机を並べ同じ授業で同じ話を聞く。大人が決めたことを決められたまま繰り返す。それでいいのか? それで俺達十代は生きてるって言えるのか? 世界は平らではなく丸いと叫ぶ者。三角の穴に丸い杭を打つ者。誰もが下を見るのに一人だけ遥か上空を眺める者。退屈な時代を盛り上げるのは俺達だ』
今、学校の生徒達はゲリラ的に授業を遮った俺の声に耳を傾けざるえない。
ここでキメるぜ!
『我々は、
声明を終えると、そのままドアに駆け寄り放送室を出た。
廊下へ出ると左側から
先頭を切る体育教師は鬼の形相で、顔を真っ赤に沸騰させていた。
「ディノン! この悪ガキがぁあ!」
「おっ? 先生。随分お早いお出迎えですね」
先生共が走り出す直前、手前の空き教室の扉が開き大量のバスケットボールが、土砂崩れのように先生共を襲う。
空き教室から出て来たのはニット棒を目深に被る黒ずくめの少年。
倒れた先生共に一言。
「先生。俺、バスケしたいっす」
俺はこの仕掛けを成功させた、
「ナイスだぜ! クリム!」
先生が起き上がる前に相棒はこっちに逃げる。
「ディノン! クリム! お前ら逃がさんぞぉ!」
俺と相棒は廊下を追ってくる先生共の反対へ走った。
後ろから教師の追いかける足音がドラムロールのように聞こえる。
階段を駆け上がると曲がる手間を省く為、途中、上の手すりに捕まり身体を引き上げて登る。
相棒も同じように登って、俺と一緒に階段を登りきると、屋上へ出て端まで駆け寄った。
屋上から下を除くと九十度の崖。
別に驚くことはない。
学校は切り立った崖の上にあるんだから。
木造の校舎の土台は、木の柱をジャングルジムのように組み合わせた
クリムが俺に確認する。
「ディノン。準備は出来たか?」
「もちろん、相棒」
俺とクリムは予め用意した二つあるとぐろ巻のロープを、それぞれ掴みロープを屋上の外へほおる。
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