少女のふくらみ

 その後、果実のなる木をいくつか見つけた。そのそれぞれに、実がなっている。帰りに取っていこうと思いつつ、後ろを振り返ると、鹿ゾンビが草を食べる仕草をしていた。身についた習性なのだろうか。もうその体では、食事はできないというのに。


 他に何かないのか、そう思ってまたしばらく前へ進むと、突然開けた場所に出た。森の中央らへんだろうか。

 石碑のような物が立っている。


 あの大規模調査の時には、こんなものがあるという報告は聞かなかった。

 不思議に思って近づく。表面に何かが書いてあるわけでは無い。ただの石の柱だ。高さは三メートルくらい、幅は……両手を広げたくらいある。


 裏に回ったところで、石碑の傍に何かいるのが目に入った。

 一瞬驚いて、腰の魔銃に手を掛ける。


 両手がだらりと下に下がり、首は斜めに傾いている。顔は向こうを向いていた。人間のようだ。


「そこで何をしている」


 しかし返事がない。魔銃から手を放すことなく、その人間の正面へと回る。

 まだ幼さが残る少女が、力なく石碑にもたれて座っていた。


 銀色の髪の毛が木漏れ日に照らされて、スパンコールのような光を放っている。顔にはやや長めの髪が掛かり、その間から、陶器のように白い肌が見えている。目を瞑ったままの表情は、どこか安らかに眠っているようだった。


 と、鹿ゾンビが私の許へと近寄ってくる。鹿ゾンビは、少女の近くにいても、逃げようとも襲おうともしなかった。

 つまり彼女は、生き物ではない。もう死んでいるのだ。


 私は少女の様子を調べるために、かがんで彼女を覗き込んだ。


 薄紫の唇は固く閉じられている。そこから血が出ているといった様子はない。顔を触ってみたが、もう冷たく、そして硬くなっていた。

 しかし、死体はまだ痛んではいない。まるでさっきまで生きていたような、いや、このまま目を開けて動き出したとしても、違和感がないほどきれいな姿態だった。


 体の方を調べるために、羽織っていたマントを脱がせる。


「なんだこれは」


 思わず声を出してしまった。

 少女が着ていたのは、黒いレースのワンピース・ドレス。いくつものリボンが付いていた。まるでパーティに行くような装いであり、どう見ても旅路に適した服装ではない。

 一通り見てみたが、目立った外傷はなかった。


「なぜこんな服装で、こんなところに来たんだと思う?」


 私は、傍で所在なくうろうろしていた鹿ゾンビにそう尋ねる。鹿ゾンビは、答える代わりにうなり声を一つあげ、そして音もなく崩れていった。

 身に持つ魔力が無くなれば、灰となって地に帰る。それがアニメイト・デッドで造ったアンデッドの宿命なのだ。


 この森に棲む鹿では、大した魔力は持っていなかったのだろう。そんなものだ、そう思った。そのことにいちいち感傷的になっていては、ネクロマンサーは務まらない。私が造るアンデッドもまた、人間と同じように、土に還る運命なのだから。


 私は改めて少女を見る。彼女の死因が何だったのか、調べておく必要があるだろう。脅威になるものの情報は、あらかじめ得ておかなければならない。

 せっかく安住の地に来たはずなのに、少し先が思いやられた。


 餓死ではありえないのだ。ここには食料が豊富にある。魔物に襲われたのでもない。ここにはいないのだから。

 状況からすれば、この子はどこかからここに連れてこられ、そして殺された可能性が高い。


 外傷がないということは……毒か、それとも精神系の魔法? しかし、ここで殺す意味がよく分からない。


 更に詳しく調べるために、私は彼女のドレスの背中に手を回す。死体から服をはぎ取るのは、正直趣味ではないが、これも仕方がない。

 背中のリボンを外すと、締まっていた首元が緩まる。それと同時にドレスの肩がずり落ちた。私は肩からドレスを下へと下ろしていく。簡単な下着のような物を着ていたが、その姿に妙な違和感を感じた。


 歳は十二・三だろうか。いくら子供とは言え、女の子ならばそろそろ体の丸みが出てくる頃だろう……しかし、痩せ気味の体には、その丸みがなかったのだ。


 少し考えた後、私は少女の下腹部を手で触れる。


 そこに、『少女』にはないはずの、膨らみがあった。

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