色が溢れるこの世界、その中の僕達は無色だった
たぴおかぴ
プロローグ
学校のチャイムの音。号令が狭い教室に響く。終礼を終えると部活動生が
点々と浮かぶ雲。ゆっくりと流れていくそれはこの時間をもゆっくりとさせているようだ。今の時刻は午後5時45分。太陽が赤くなり始め、雲が燃えるような色となる。
そこまでぼうっと眺めたところで、僕は帰る準備をし始めた。ペンケースにシャープペンシルを投げ入れ、教科書と共に
廊下を渡り、階段を下り、昇降口に辿り着く。慣れた手つきで靴箱からローファーを取り出し、先程まで履いていたスリッパをなおす。
バイトを終え、家に着くと制服を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込む。
僕は高校から一人暮らしをしている。風呂を沸かし、その間に飯を済ませ、風呂で一息付く。風呂から上がると、明日の準備をし、布団に入りながらスマホをいじる。
白い鳥のSNSを見ながら日を跨ぐ。
僕は面と向かって人と接するのが苦手だ。だからこうして姿のない人との会話を楽しむ。
人の顔に貼り付けられた表情は…苦手だ。
* * *
翌日、僕はいつも通り学校へ行き、自分の席へ座った。朝礼がはじまる直前に担任が教室に入ってくる。
いつも通りの学校生活。誰とも顔を合わせず一日を過ごす──。
今日の学校が終わりを迎えようとしている。学校のチャイムの音。号令が狭い教室に響く。終礼を終えると部活動生が慌ただしく教室をあとにする。
僕はと言うと、空を見ていた。そう、何も考えずに。今日は飛行機雲が見えた。もっと前からあったのかもしれない。真っ直ぐと伸びるその飛行機雲は空の
いつもの登下校路。バイトのシフト入れておらず早めに帰ってゆっくりしようと思っていた。しかし、下校と同時に雨が降ってきた。今日は雨の予報はなかったはずだ。急に降り出した雨から
視界が
バスを待っているわけでもないのだが、いつ止むかわからないこの雨に立つ気も失せ、ベンチに腰をかける——。
一体どれだけの時間が経っただろう。依然として雨は降り続けている。
(家にはいつ帰れるかなぁ…)
深くため息を吐き、ベンチに深く座り直す。
何もすることがなく、スマホを弄っていると横から声をかけられた。
「あの…一之瀬君だよね…?」
そう声をかけてきたのは…えっと名前が思い出せない…。いや、正確には覚えようともしていないのだが。
クリっとした目に、小さな口。肩まで伸びた綺麗な黒髪。どっかで見たことがあるような…えと、確か同じクラスの……。
「やっぱり覚えてないよね〜。私は
僕の無反応っぷりを見て察したのか先に口を開いたのは声をかけてきた彼女だった。なんと、僕と彼女は隣の席だったようだ。回りに関心がなく興味も意識も向けないと周りに誰がいるかも分からなくなるのだ。
「ご、ごめん。人覚えが悪くて…。ところで逢坂さんは何を?」
急に僕に声をかけてきたのには何かわけがあるのだろう。いつも教室の外を眺めているような人間に声をかけたのだ。何かがあるはずだ。
その質問を待っていたかのように彼女は持っていたあるものを突き出した。それは…傘だった。
「一之瀬君傘持ってきてないでしょ。私は迎えが来るから貸してあげる。」
曇りのない笑みで傘を差し出してくる。僕は人の笑顔が苦手だ。
僕が小学生の時。事故で父が他界し、母はそれを受けて鬱病になった。それに見兼ねた祖父母が僕をひきとってくれた。その時の祖父母の様々な思いを塞ぎ込んだ笑顔が頭から離れない。
「…ありがとう。明日学校で返すね」
僕は笑顔への拒否感を笑顔で塗りつぶし、彼女に感謝を伝えた。
この感覚が嫌で嫌で仕方がないんだ。
逢坂さんの迎えが来るまでバス停で他愛も無い話をした。話す度に彼女が見せる笑顔、その度に酷く歪む心。
彼女の迎えが到着し、母親らしき人物に頭を下げる。そうして僕はやっと帰路に着くことが出来た──。
「…ふぅ」
家に帰りついた僕は玄関に傘を立てかけ自室に鞄を乱暴に投げ、ベッドに座り込む。
人の笑顔、それは僕にとって辛いものでしかなかった。誰かが笑みをこぼす度に僕は過去の出来事を思い出す。
一度は人との関わりを自ら拒絶した身だった。しかし、今日は笑顔に溢れた人と他愛も無い話をした。
この世界の片隅で起こったこの出来事が僕にとって運命となる。
——あとがき——
どうもたぴおかぴです。
この度「廃れた世界に花束を」に次ぐ二作品目を執筆させていただきました。
この作品はただイチャコラする作品ではありません。ただ、しっかりとした恋愛ものを作り上げるという目標は変わりませんので、最後まで見ていただけると幸いです。
この作品も頑張ります。応援よろしくお願いします。
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