ろくでもないみち
やくろ
洗面台
「ちょっとどいてよ」
スリッパの履いた足音が近づいてきて、その足元だけを見る。ダサいなぁ、その歳になってまだ、クマの顔がついているの履いてるの。
今、歯磨きしてる。なんて言葉も出すのが面倒くさい。ちょっと睨んでから、少し後ろに下がる。
「お姉ちゃんさぁ、昨日も本当にうるさかった。あれ、なんとかしてよ」
「あんただって、」
言い返そうとしたけど、出てこなかった。悔しい。止めた手をもう一度動かした。鏡が汚い。それを越して、妹を見ると、睨み返された。憎たらしいったら、ありゃしない。顔を洗い出した妹。長くかかるんだよね、それ。
「先に終わらさせてよ」
そう言うと、どいた。素直じゃないか。いつもそうであってくれ。髪の毛が落ちている洗面器に少しイライラした。
口をゆすぐと、またどいて、と。
今流行りのロックバンドがあって、私はそれに夢中になっている。それから、妹との仲が悪くなった。どうして?私が毎晩遅くまで、大音量で鳴らしているから?勝手に、妹の部屋にCDを持ち込んだから?彼女の部屋のプレイヤーに、勝手にDVDをセットしておいたから?反抗期ならとっくに終わって、思春期が始まっているから?
わからない。
恋でもしたの、と聞きたい。ヘアバンドを新しくして、入念に顔を洗っているし。
時間を見たら、もう出かけなきゃいけない。
「ねえ、なんでさ」
「怒ってないよ」
怒ってるじゃん。
「もしかしてさ」
わかったかも。
「私のプリン、勝手に食べたんでしょ」
長い間、言い出せなかっただけかも。にやっとした。
水をかけられた。あーあ、着替えなきゃな。
ろくでもないみち やくろ @896desu
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