わたしとその男の子【6】


 わたしが人と話すことに苦手意識を感じる一番の要因は、話の切り出し方がわからないことだ。


 周りの子と興味関心が合わないことが多いのを自覚しているから、うかつに話を始められない。

 最近名前が有名になってきてからは、どんどん周りも遠慮しがちになってくるしね。


 世間はともかく、君たちはわたしが芸能人である前にクラスメイトじゃないの?

 わたしはずっとわたしなんだけど!


 とはいえ子役活動をしたことによって、わたしは人付き合いにおける新しい武器を手に入れた。

 わたしを捨てるのだ。


 自分らしさを捨てて、いつか演じた物語の中の女の子の力を借りる。

 何というか、自分の身体を使って他人に喋らせるような感覚を持つだけで会話がすごく楽になるのだ。


 元々わたしがどんな人間かなんてみんなわかってないし、問題無い。というかそんなのわたしだってよくわかってないしね。


 今のわたしは、クールでミステリアスで、そして少し小悪魔な女の子。

 わたしもできることならこの子のようになりたい。

 そしてわたしは完全にそうなることはできなくても、一時的に化けることはできるのだ。


 ふふっ。はるひ君困ってる。可愛いなぁ。

 このキャラ凄いっ!なんかぐいぐい話しかけられる!こんな風に出来るなら、頑張るだけの甲斐がある。


 えっ?もちろん恥ずかしいよ?

 でも最初だけ思いっきりアクセルを踏めば、後は「彼女」が喋ってくれる。


 どう考えても積極的に話しかけてくるタイプでは無いはるひ君には、なんとなくこれくらいが丁度いい感じもするしね。



 この日をきっかけにわたしは隣の席の男の子にまた少し近付いた。

 日々のちょっとした挨拶を大切に、毎回少しの勇気を絞り出した。


 彼の方も、恥ずかしそうにだけど必ず返事を返してくれた。


 そしてそんな日々は、正直とても楽しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の一瞬、私と一緒にいて下さい 生田利一 @takoyaki11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ