最後の一瞬、私と一緒にいて下さい

生田利一

プロローグ

「またね。」


 多くの人は、誰かと別れる時にそんな挨拶をするのだと思う。


 でも、毎回それを言うということは、いつかその約束は破られてしまう。


 もう二度と会うことはないなんてことは珍しくないどころか、むしろ必然なのだ。


 だから一度の機会は大切にしなければならない。


 人生はやり直せない。当たり前のことだ。


 あそこの横断歩道に、男の子がいる。

 道路の真ん中で屈み込んで、靴紐を結び直している。


 そこにはトラックが猛スピードで迫ってきていて、運転手は気を失って明らかに前を向いていない。


 男の子はようやく危険に気がついたけれど、間に合わない。

 私は、何もすることができない。


 少しでも時間を動かすことが出来れば助けられるのに、私にそんな力は無い。


 巨大な車体が男の子に触れるまで、こんなにも時間がゆっくり流れた気がするのに。


 相対論は彼を助けてはくれない。

 言うまでもなく時間は事実上一定に流れ、そして、二度と戻らない。


 男の子の身体が宙を舞う。全てが壊れる音がした。


 私の力はここからしか働かない。それも、彼を助けることが出来るわけじゃない。


 全てが手遅れになってから、終わりを少しだけ先延ばしにするだけの、虚しい力。


 人生に再戦は無い。けれど、延長戦はあるみたい。


 この声の届く人へ。

 どうか、まずはある男の子の話を聞いてあげて下さい。本戦無くして、延長戦は語れない。


 彼の人生は、劇的ではなかったかもしれないけれど、とても、懸命なものではあったから。

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