第4話 俺と後輩の行動原理
「あー……重かった……」
どん、と音を立て、床へと米の袋を置いた俺は、両肩を回す。
「お疲れ様です。ありがとうございます、先輩」
「おう」
今度は首を回しながら、俺はしみじみと呟く。
「やっぱり運動不足だな……」
「大学生って、思っている以上に運動しませんよね。高校の体育って大事だったんだなって思います」
「わかる。……まあ、体育の授業嫌いだったけどな」
「そうなんですか? ……って、別に意外でもないですね」
買ってきた食材を、てきぱきと冷蔵庫へとしまっていく蒼衣が、納得したように軽く頷く。
「そうか?」
「はい。面倒だっただけですよね?」
「さすがだな……」
俺が体育を嫌っていた理由は、ひとつだ。
面倒くさい。これに尽きる。
「先輩って基本的に、面倒かそうでないかで行動しますよね」
「まあ、そうだな。……というか、普通はそうじゃないのか?」
そう問いかけた俺に、蒼衣はぴん、と人差し指を立て、片目を閉じる。
「わたしは違いますよ」
「へえ、じゃあ何を基準に?」
「先輩が喜ぶかどうか、です」
どや、となぜか誇らしげな蒼衣に、俺はわざとらしくため息を吐く。
「……それ、俺と出会ってからだろ……。その前は?」
「その前は──そうですね。楽しいかどうか、だと思います。準備が面倒でも、そのあと楽しいことがあるなら、多少の面倒なことは許容できますね」
「なるほどな。俺はその面倒があるとダメなんだよなあ」
「なるほどなるほど。だからこういうのを買うんですね?」
そう言いながら、蒼衣は買い物袋の中から、四角いものを取り出した。
俺がこっそりとカゴに入れていた、インスタント焼きそばだ。
「……バレたか」
「こんなに大きなもの、バレないと思ってたんですか。というか、レジで普通に気付きますよ」
まったくもう、と言わんばかりに、小さくため息を吐いた蒼衣が、俺のほうをじとり、と見る。
「それで、たまには食べたくなったんですか?」
「まあ、それもある。あとは、たまに蒼衣がいないとき用に置いておこうかな、と思って」
「……なんだかインスタント食品に負けた気分になりました。しばらくは作り置きを徹底しておきます」
「なんで張り合ったんだ……」
「なんとなくです」
なぜ張り合ったのかはまったくわからないが、正直なところ、作り置きは助かる。夜はほとんど一緒に食べているが、昼は講義の時間によっては、部屋でひとり、ということも少なくないのだ。そのとき、食べるものがあるのは本当に助かる。
そう思っていると、変わらずあきれた視線を向けてくる蒼衣が、同じくあきれた声を出す。
「自分で作ろうとはならないんですか……」
「ならないんだよなあ」
それこそ、面倒だからな。
そもそも、そんな気概があるのなら、蒼衣と出会う前にインスタント食品ばかりの生活は送っていなかっただろう。
……もしそうなら、俺と蒼衣の関係は、こうまでなっていなかったのかもしれない。
……インスタント食品、もしやキューピッドなのでは?
そんなくだらない事を考えていると、蒼衣がため息を吐いて。
「もう……。先輩は本当に、わたしがいないとダメなんですから」
嬉しそうに、そう言った。
「……まあ、否定はしないな」
「できない、の間違いじゃないんですか?」
そう言って、にやぁ、と俺を見てくる蒼衣に、俺は言い返す言葉もなく。
「……うるせえ」
負け惜しみのように、そう呟いた。
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