第17話 綺麗というより

どん、どん、と鳴り響いていた音が、まばらに聞こえる。そして、遅れて打ち上がった花火が消えると、一瞬の静寂が訪れた。


先ほどまでとは一転、しん……とした空間は、なんだか別の世界に飛ばされたようにも感じられる。


どうしてか、音を立てるのがためらわれて、俺は動けない。それは、隣の蒼衣も同じなのだろう。ただ、息を呑むような気配があった。


ぼぅ、っと闇夜を眺めていると、ひゅるるるる……という音を伴って、いくつかの光が真っ直ぐと紺色の空に登っていって。


どん、という音が複数重なったあと、無数の光が重力に負け、落ちていく。あちらこちらで光が下がっていくので、まるで黄金の滝のようだ。


これは、たしか柳という種類の花火だったと思う。つまりは、花火大会のフィナーレ。


目をキラキラさせた蒼衣がはしゃいでいて、花火をバックにそれを見ながら、屋台飯をつまんでいたのだが……気がつけば花火大会も終盤というわけだ。


バチバチバチバチッ! と稲妻の弾けるような音を立てながら、柳がまたも空を埋め尽くす。


なんだかんだで、これが1番好きかもしれない。どんな花火より、派手な気がするのだ。それと同じくらい、花火も終わりなのだな、という寂しさもある、不思議な種類の花火でもある。


綺麗だなあ、と思いながら眺めていると、隣の蒼衣が、視線を逸らすことなく、外を眺めてぽつり、と呟く。


「……綺麗ですね」


その声は、花火の音を通り抜けて、はっきりと耳に届く。


「……だな」


「……もう。先輩、そこは君の方が綺麗だよって言うところですよ?」


お約束じゃないですか、なんて言いながら、蒼衣はぷくり、と軽く頬を膨らませる。


そんな蒼衣は、綺麗というよりも──


「お前は綺麗っていうより、可愛い、だからな」


「──っ。……もう、先輩は……」


そう言って、目を逸らし、花火へと視線を向けた蒼衣の頬は、金色に照らされているのに、赤く染まっていた。


ほら、こういうところとか、な。

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