第47話 昼食は適当に

車を走らせて、30分ほど経った頃。


「……あ!」


唐突に、蒼衣が声を上げた。


「どうした?」


「美味しそうなお店を見つけました」


「へえ、どこだ?」


俺は前から視線を逸らさず、蒼衣にそう問いかける。


「もう通り過ぎましたね。反対車線にありました」


「まあ、そうだよな……」


すぐに行きすぎる、というのは、車の不便なところのひとつだ。


「ちなみに、何屋だったんだ?」


「お蕎麦屋さんです。先輩って、お蕎麦屋さんでお蕎麦食べたことあります?」


首を傾げる蒼衣に、俺は少しだけ横に振る。


「いや、ないな。そもそも蕎麦ってあんまり食わないし」


「ですよね。わたしも食べたことないんですけど……お蕎麦って、お店で食べると全然違うらしいんですよ」


「へえ……ちょっと気になるな」


とはいえ、残念ながら繊細な舌を持っていない俺には、その違いがわからないことが多いのだが……。それはまた別の話だ。気になるものは気になるのである。


「ですよね。なので、次に見つけたお蕎麦さんでお昼ご飯にしませんか?」


「いいな……と言いたいところなんだが、蕎麦屋ってそんなに頻繁にあるか?」


そう、そこである。


そもそも蕎麦屋で蕎麦を食べたことがないというのは、蕎麦屋が少ないから、というのもあると思うのだ。……あえて蕎麦を食べようとすることが少ないのもあるが。蕎麦、結構いい値段するからな……。


「……多分、ないですね」


俺と同じく、蕎麦屋の少なさに気づいたのであろう蒼衣の言葉を聞きながら、俺は近くにあったコンビニの駐車場へと車を向かわせる。


「まあ、そうだよな」


田舎のコンビニに多い、広すぎるくらいの駐車場で、ぐるりと回転。遠心力に体を預けつつ、今来た方向へとハンドルを切る。


「というわけで、戻るぞ」


「わーお、自由ですね」


くすくす笑いながらそう言った蒼衣に、俺はにやり、としながら返す。


「そういう旅行だからな」


「自由な旅行、やっぱりいいですね。家族旅行だとこうはいきませんし」


「俺が適当なやつでよかったな」


「そうですね。先輩が適当な人でよかったです」


「……いざそう言われるとなんとなく複雑だな……」


「先輩が自分で言い出したんですけど!? あと先輩が適当な人なのは知ってましたが!?」


そんな蒼衣のツッコミを聞きながら、俺は蕎麦屋の駐車場へと車を向かわせるのだった。

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