第12話 謎の土産たち

足湯でバトルを繰り広げたあと、俺と蒼衣はまた温泉街観光へと戻っている。


「やっぱりお土産屋さんが1番多いですね」


ちゅーっ、と透明なカップに入ったみかんジュースを飲んで、蒼衣はそう言った。濃厚な橙色の液体は、みかんを直に絞って作られているらしい。ちなみにだが、別にここはみかんの名産地だったりはしない。


「まあ、あればあるほど儲かるんだろ」


「中身がほとんど一緒なのに、ですか?」


「むしろ、どこに入っても同じものが置いてあるのがいいんだと思うぞ。別の店で買い忘れてもわざわざ戻る必要もない、とか。コンビニが近距離に乱立するのと一緒だな」


「そういうものですか」


「多分な」


そう言って、俺は肩をすくめる。まあ、蒼衣はその動作を見てはいないのだが。


蒼衣の視線は、あるひとつの土産屋に注がれている。その店は、これまで見た店とは違い、食べ物系のお土産屋はあまり売っておらず、ストラップやタオル、ポストカードなどの物系をメインに売っているらしい。


「わあ、このうさぎのポストカードとか、可愛いですね」


「この辺、うさぎが関係するものなんてあったか……?」


うさぎが住んでいた、とか、うさぎが飼われていて見れる、とか、うさぎと触れ合える、とか、そういうのはなかった気がするのだが……。


あれか。土産屋特有の謎の商品か。まったく関係ないのに置いてあるだけなのか。


俺が首を傾げている間にも、蒼衣の興味は他へと移る。


「先輩、ご当地カラー猿コレクションなんていうのもありますよ。なんだか妙に愛着の湧く顔です」


そう言って、蒼衣が差し出してきたのは奇妙な顔をして、温泉まんじゅうを模した被り物をした猿のぬいぐるみだ。しかも、温泉まんじゅうのくせに色が黄色い。……愛着、湧くか……?


というか、猿関係の何かってあったか……? ……いや、猿は無関係だな。なんで猿……?


「あ、たぬきバージョンもあります」


「動物の種類の一貫性がなさすぎるだろ……」


しかも、たぬきも変な顔をしている。次の温泉まんじゅうは紫色だ。なぜこのデザインで通した。


土産物のセンスがわからねえ……。


そう思いつつ、視線を軽く彷徨わせると、目に留まったものがひとつ。


大きな直方体の白い箱の中に、メタリックな車が1台、存在感を放っている。


「お、ここでもラジコン売ってる」


「あ、本当ですね。……なんでラジコンって、電気屋さんのおもちゃ売り場とか、そういうところより観光地の方が売ってるんでしょうね?」


「……財布の紐が緩んで買いやすくなるから、とか」


「わーお、戦略的販売ですね……」


と、そこでふと気付いた。


「……なあ、ここにラジコンがあるってことは、温泉街を爆走しても許されるんじゃないか……?」


「いや、さすがに許されませんよ」


「しかも悪路走行用だぞ。走らせろって言われてるな」


「言われてませんよ!? 先輩どうしてもラジコンが欲しいだけでは!?」


「そうとも言う」


「そうとしか言いませんよ! ラジコンは今回は諦めてください。また走らせられるところに行くときに買いましょう」


「おう……」


うむ……温泉街を爆走させたかったな……。ちょっと名残惜しいが、まあ仕方あるまい。


ラジコンの箱から目を逸らすと、ふいにあるコーナーが目に入る。


タオルコーナーらしい。が、ただのタオルではなく、美少女イラストが描かれたタオルだ。……いや、もう土産物ですらねえな……。


そう思い、また違う場所に視線を動かそうとして──なんとも興味深い字面を見つけてしまった。


このタオルはお湯に浸けると、絵が変わるらしい。


それだけなら、まだいいのだ。


さらに俺を──というか、おそらく多くの男が興味を持ってしまうひとことが、そこには書かれている。


曰く、この描かれた美少女の服が脱げる、らしい。


「……」


気になる……。とてつもなく気になる……。


そういえば、実家で家族旅行に行ったときにも、こんなタオルを見かけた覚えがある。さすがに、両親の前では買うことなど出来ず、いったいどんなものだったのかはわからずじまいだったのだが。


ここにきて、ようやく謎が解明出来るかもしれないチャンスが巡って──


「先輩、さっきから何見てるんです?」


きてはいなかった。


……まあ、当然である。男だけの旅行とかならともかく、彼女との旅行でそんなものは買えない。


満たされそうだった好奇心が、また満たされることなく、不完全燃焼感を味わいながら、俺は素知らぬ顔で、


「……いや、なんでもねえよ」


とだけ、返すのだった。


「……なるほど。濡らすと服が脱げるタオルですか……」


「……何の話だ」


「さぁ? なんでしょう」


にやつく蒼衣から、俺は思いっきり目を逸らした。

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