第5話 サービスエリアで小休憩
高速道路を走りはじめて、2時間ほど経った頃。俺と蒼衣は、サービスエリアへと立ち寄っていた。
何度もやり直し、蒼衣にも助けてもらいながら、なんとか駐車に成功した俺は、ようやくひと息つける。
「んんー……っ」
ぐいっ、と両手を空へと掲げ、伸びをしている蒼衣を見習って、俺も両手を上げる。ぱきぱきと背中から音がした。
「はぁ……。ここまでの運転よりも、駐車が1番疲れた……」
続けて、肩を回しながら、俺は深呼吸。田舎の高速道路の例に漏れず、この辺りも山の中にある。空気が美味い。……いや、周りには排気ガスしかないだろうけれど。気持ちの問題だ。
「お疲れ様です、先輩。駐車って、そんなに難しいものなんですか?」
両手を左右に大きく広げながら下げていった蒼衣が、首を傾げる。
「めちゃくちゃ難しい。前にまっすぐ進むとか、曲がるとかはそんなに難しくはないんだが、下がるってなった瞬間に難しくなる」
「へぇー、そんな風には思えないんですけどね」
「そう思うだろ? やってみたら案外出来ないぞ」
事実、俺も未だに上手くは出来ないが、これでも切り返しの回数が減った方だ。本当に練習しておいてよかったと思う。
ゆっくりとサービスエリアの建物へと向かいながら、そう思う。
「なんだか、ちょっと免許を取るのに興味が出てきたかもしれません」
「お、いい傾向だな。蒼衣が取ったら、蒼衣の運転でドライブに行こう」
「……事故を起こしても怒らないでくれるなら、いいですけど」
「そこはまあ、俺も下手だからお互い様で、だ」
「そこは事故を起こさない前提でいろって言うところですよ」
「今日、運転することの安全性に多分をつける俺が、そんなこと言えないんだよなあ」
「……それはたしかに、ですけど……」
微妙な表情の蒼衣。だが、そもそも世の中の運転手は事故を起こさない前提というか、そのつもりで運転をしているのだ。注意しろ、とか気をつけろ、ならともかく、事故を起こすな、は今更感がある。
……まあ、そんな話は置いておいて、だ。
俺は、先ほどから鼻腔をくすぐる香りが気になって仕方がない。
スパイシーな香りや、肉の脂の焼ける匂い。すれ違う人々の手には、それ以外にも色々な種類の食べ物が握られている。どうやら、屋台のようなものが出ているらしい。
運転中には集中しすぎていたのか、気にならなかったが、腹が減っているらしい。自覚をすればするほど、余計に空腹感が増す。俺は朝は食べないタイプなので、そのせいもあるのだ。
「とりあえず、軽く何か食うか」
「そうですね。なんだかいい匂いもしますし、ちょっとお腹が空きました」
えへー、と笑う蒼衣に手を取られ、俺はその手を握り返しながら、美味そうな匂いを漂わせつつ、規則正しく並ぶテントに向かって歩き出した。
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