第7話 帰省といえば、もうひとつ
1年ぶりのそうめん山積み大騒動があってから。
俺と蒼衣は、何をするわけでもなく、ただ雑談に耽っていた。
「久しぶりの実家はどうでした?」
「なんというか……暇だったな」
「あー……。わかります。なんというか、こう、刺激がないんですよね」
頷きながらそう言った蒼衣に、俺も頷き返す。
実家に帰る、というのは、下宿している大学生にとってはある意味一大イベントだ。なにせ、生活費がまったくかからなくなり、食事やら何やらを自分ですべて準備する必要もなくなる。いわば、ボーナスタイム。
……なのだが。
基本的に家事は蒼衣がしてくれているので、俺にとっては普段と変わらない。金に関しては俺が出しているが、昔ほど外食やコンビニ弁当を食べていないこともあって、そう困るほどのものではない。……いや、旅行資金を貯めているので余裕があるわけでもないのだが。
そんな状況で、いざ実家に帰る、となっても、あまりボーナスタイム感はなく。
その上、田舎の何もないところなので、ただ暇な生活を送るだけ、となってしまうのだ。
せっかく地元に帰ったのだから、地元の友達と遊べ、と思うかもしれないが、なぜかそういうときほど帰省のタイミングが合わないものなのだ。まったく不思議である。
「来年から、実家に帰るのやめようかなあ」
「いや、さすがにそれはご両親が心配すると思いますけど……。あ、そういえば先輩」
「ん?」
「わたしたち、年末年始は帰らなかったじゃないですか」
「おう」
「何か言われました? 帰ってこい、みたいな」
「あー……。まあ、一応は言われたな。別にどっちでもいいとも言われたけど」
「それは結局どっちなんですか……」
「俺の親は適当だからな。蒼衣は?」
おそらく、俺の適当さ加減は親譲りなのだろう。遺伝子が悪い。俺は悪くない。
勝手に納得していると、蒼衣がじと、とした目線に変わったので、思考を打ち切る。
危うく思考を読まれるところだった。……もう読んでいますが、みたいな顔をするんじゃねえ。
「わたしは言われましたよ。せめて、年末かお正月のどっちかは帰ってこいって」
「まあ、言われるよなあ」
一応、お盆と並ぶ帰省タイミングだ。それに加えて、蒼衣は女の子。さらに、可愛いときたものだ。俺と違い、親の心配も尽きないのだろう。
蒼衣の親の気持ちにも納得だなあ、と思っていると、蒼衣がふふん、と笑って、口を開く。
「なので、家を出るときに今年も帰らないよー! って言ってきました!」
ぶい、と手を前に突き出す蒼衣。ぱちり、とウィンク付きだ。可愛い。可愛いのだが。
「いや、帰ってあげろよ……」
「えー……。だって、次の年末年始も先輩と一緒に過ごしたいんです。……先輩は、違うんですか?」
ぷく、と頬を膨らませたあと、見上げるようにこちらを見る蒼衣に、どきり、とする。さらに、そんなことを言うなんて、反則以外の何物でもない。
俺は、小さく息を吸って。
「……年末年始、ゆっくりしたいから、何もしないぞ?」
そう、呟くのだった。
それに、蒼衣は満足そうに笑って。
「大丈夫です。連れ回しますから」
「大丈夫じゃねえ……」
……きっと、連れ回されているんだろうなあ。
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