第6話 先輩のお説教

「……さて、言い訳を聞こうか」


半目になって腕を組み、俺はテーブルの向かいの蒼衣へと視線をやる。


「まず、これは実家にあったそうめんの、全部です」


「今お前全部って言った?」


「はい。全部です」


こくり、と頷く蒼衣。全部って、お前な……。


俺は小さくため息を吐いて、出来る限りの優しい顔を作る。


「お前これ、確信犯だろ?」


「違いますよ!? 先輩が持って帰って来たのが大誤算なだけです!」


「いや、昨年のことを考えれば、俺が持って帰ってくることは、蒼衣ならわかったはずだ」


蒼衣は、俺のように何も考えず生きているタイプではない。確実に、こうなることはわかっていたはず。ということは。


「……わたしも持って帰ったら、先輩どんな顔するかなー、とかそんな感じで持って帰って来ただろ」


「……鋭いですね」


「まあな」


蒼衣が俺の思考を読めるのと同じように、俺にだって、ある程度蒼衣の考えはわかったりするのだ。それくらいには、一緒の時間を過ごして、蒼衣のことを見てきたつもりだ。


「お互いにわかりあっている、なんて、なんだかくすぐったいですね」


そう言って、蒼衣は顔に手を当てて、えへへ、と笑う。


「だから、すぐに思考を読むんじゃねえ……」


というか、俺はそこまで出来ないのだが……。


いずれ出来るようになるのだろうか。……いや、多分ならないな……。


……それはともかく。


「で、やっぱりお前は、俺の反応を見るためにこれを持って帰って来た、と」


「まあ、ほとんど正解です。両親に押し付けられた、というのもありますけどね」


「……なんで親って、そうめんを押し付けてくるんだろうな」


「多分、自分たちが食べる量より多く貰うからだと思いますよ。あとは、食費の心配じゃないですか?」


「あー、たしかに」


蒼衣はともかく、俺なんかは家計簿とか、そういった金を使う計画を組むのがひどく苦手だ。そのせいで、月末に金を使い切っていると思われている可能性がある。


……まあ、それなら食費の援助を増やしてくれ、という話なのだが。


……もしかすると、食費まで遊びに使っていると思われているのかもしれない。……心外だな。そもそも食っていない方が多かったというのに。


あとはまあ、俺の場合はまともに料理しないのがバレてるから、簡単に作れるのを渡されている可能性があるな……。作れ、という親からの圧かもしれない。……そうめんより外食の方がまだ健康的な食事な気もするぞ……。


そんな風に原因を色々と考えていると、こほん、と蒼衣がひとつ、咳払いをする。


「まあ、今年も頑張って食べましょう!」


そう言って、ぐっ、と胸の前で手を握る蒼衣に、俺は笑って。


「おう。頑張ってくれ」


「先輩も頑張るんですよ!? というか先輩の方が貰ってきた量多いんですからね!?」

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