第35章 8月4日

第1話 試験終わりのひととき

雲ひとつない、快晴の日。俺は、大学のキャンパス内を歩いていた。


じりじりと照りつける太陽光も、今日は気にならない。……嘘だ。寝不足の体にはとてつもなくしんどい。


それでも、気分だけは上がるものだ。


なにせ、テストが終わったのだから──!


いつの世も、テスト終わりの学生というのは、晴れやかで解放された気分になるものだ。それが、テストの出来に関わらず。


例にも漏れず、俺も晴れやかな気持ちで、炎天下を歩いているわけだ。テストが出来たかどうかは聞かないでほしい。


「せーんぱい!」


一瞬遠い目をしそうになったところに、横から可愛い声が飛んでくる。


とん、と俺の前に1歩出るのは、とびっきりの美少女。茶色がかった髪を揺らし、薄手の白いシャツに水色のロングスカートという、爽やかかつ少し大人びた印象を受ける。──俺の彼女、雨空蒼衣だ。


「やっとテストも終わりましたね! お疲れ様です」


「おう、お疲れ」


手のひらをこちらへ向けてくる蒼衣に倣い、俺も手のひら見せる。ぱちり、と軽めの音を鳴らしてハイタッチ。……いや、ハイタッチ、というには位置が低いけれど。


離れた手にはその感触がまだ残っていて、ぴりっとしたそれはなんだか心地いい。


そう思っていると、その手が柔らかいものに包まれる。ちらり、と手を見ると、蒼衣が俺の手を握っていた。


満足そうに笑う蒼衣に、俺は口角を上げつつ、その手を握り返す。


「ようやくお休みですねー」


「だな」


やはり、大学に行かなくてもよくなると思うと気が楽だ。特に、起きなくてもいい、というのが素晴らしい。自力では起きていないけれど。


……それはともかく。


この夏期休暇には、やりたいことや、やらないといけないことが山ほどある。この期末試験が終わったら、蒼衣に言おうと思っていたアレもあるのだ。


けれど、そのあたりのことはひとまず置いておいて。


「蒼衣、コンビニ寄ってもいいか?」


「いいですけど、何か振り込みとかですか?」


首を傾げる蒼衣に、俺は首を横に振る。


「いや、普通に買い物」


「そこのスーパーではダメなんですか?」


さらに深く首を傾げる蒼衣に、俺はにやり、と笑う。


「ちょっと美味いアイスでも買いに行こうかと思ってな」


蒼衣の瞳が、きらり、と輝いたのを、俺は見逃さなかった。

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