第7話 それは珍しい頬膨らませ

「ん、んん……」


……背中が痛い。あとちょっと寒い。


いつもと違う感覚に、思わず体をよじる。


「ひゃう!?」


少し傾けた顔に、これまたいつもと違う感覚。そして、甘い香りが寝起きの脳を刺激する。おまけに、なんだか可愛い声付きだ。


ゆっくりと目を開くと、ほんの少しの眩しさのあと、茶色がかった髪が揺れ、可愛い顔が目に入る。


「あ、起きましたか。おはようございます」


「……おう。……おう?」


そういえば、朝から酒を飲んで寝たんだったか……?


少しずつ、意識と共に記憶がはっきりしてくる。


……あれ? 俺、結構色々と言ったような……?


「せ、先輩。その、起きたのならお願いがありまして」


はっきりしてくる記憶に、顔が赤くなりはじめた瞬間、蒼衣が上から声をかける。


「な、なんだ!?」


「その、ですね……」


慌てる俺に対し、蒼衣は顔を引きつらせ、なんなら少し涙目で、俺を見る。


「あ、足がものすごく痺れてるので、起き上がってもらえるとありがたいです……」


……そういえば、膝枕もしてもらった覚えがあるな……。いい匂いがしていたのも、蒼衣が近かったからだろう。


「え、あ、ああ、悪い」


そう言って、俺は頭を上げようとする。


「あ、待ってください! ゆっくり、ゆっくりですよ!」


それを静止するように、焦る蒼衣が叫んだのだが──


「ひゃぅ!?」


さすがに間に合わなかった。


「わ、悪い」


「ぁぁぁぁぁ……」


脚を押さえ、涙目で声を漏らす蒼衣。それを見て、なんとなく、こう、イタズラ心が芽生えてしまった。


「……」


そーっと手を伸ばし、人差し指で、蒼衣の腿をつん、と触る。


「わひゃぁ!? 何するんですかぁ!」


痺れに耐えながら、蒼衣は俺を睨みつける。睨まれるのなんて珍しいな。これはこれで。


「こう、なんとなく、涙目の蒼衣にイタズラしてみたいなー、と思って」


「わたしは今なんとなくでやられたんですか!?」


ぷっくー、と頬をこれでもかと膨らませる蒼衣だが、いつもと違う本気の不満の表情に、俺は満足感がある。たまにはこういう蒼衣が見れると、レアで嬉しくなるのだ。決して、そういう趣味ではない。


「……なんで笑ってるんですか」


「いや、レアな蒼衣が見れたなー、と思って」


「むうぅぅぅぅ! 絶対やり返しますからね!」


ニヤニヤと笑う俺に、蒼衣は膨らませた頬をさらにぷくっ、と膨らませ、ふん、と顔を背けた。

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