第2話 忘れた代償は大粒で

これだけ快晴なら、雨なんて降らないし、どうせ天気予報の間違いだろう。


そう思っていた数時間前の俺に伝えたい。


土砂降りだと。


「マジか……」


2限からはじまった講義を終え、昼食を挟んで4限まで講義を受けた後。建物から出た俺を迎えたのは、朝と変わらぬ気持ちの良い風と太陽──ではなく。


ひっきりなしに降り続ける、大粒の雨だった。


さすがに、この雨は走って帰っても鞄までびしょ濡れだろう。俺自身や鞄が濡れるのはともかく、中身の教科書やプリントが濡れるのは非常にまずい。


……仕方ない。コンビニでビニール傘でも買って帰るか。


地味に高いビニール傘を買うことに、テンションを下げているが、問題はもうひとつ。


売っているコンビニは、俺が今いる建物の反対側にある、ということなのだ。そして、そこそこの距離がある。


つまりは、コンビニまでは確実に濡れてしまう。


「もう少しマシになってから、だな……」


どれくらい待たされるのだろうか、と、げんなりしながら、チャンスを見逃すまいと建物の前で待ち続ける。


……これ、止むのか? さっきよりも強くなっている気がするんだが……。


もういっそ、多少濡れることは覚悟してコンビニまで走ったほうがいいかもしれない。だが、こういうときは走って、着いた直後に雨が弱まる、ということが多い。


そのくせ、待っていると強まるのだから困ったものだ。……いや、あくまで体感だということはわかっているのだけれど。


うーむ、どっちにするべきか……。


スマホをぺちぺちと叩き、適当なゲームのスタミナ消化をしながら考える。……本当にどうしようか。


周りには、俺と同じように朝の天気を信じて傘を持って来なかった人がコンビニへ駆けて行ったり、なんとか屋根伝いに次の講義室へと向かっている。小雨待ち勢は、暇そうにスマホを叩いていた。


目線の先には、天気予報を信じた人や、常に折り畳み傘をカバンに忍ばせている人が悠々と帰宅をしている。羨ましいな……。


そう思いながら、ぼーっと辺りを眺める。止むどころか、弱まる気配すらない雨の中、地味目の色合いをした傘が度々通っていく。


基本的に4限が最終講義なので、通る傘のほとんどがキャンパスの外へ向かっている。そんな中、水色の傘を差し、こちらへと向かってくる人がひとり。遠くてはっきりとは見えないが、スカートを履いているようなので、女性だろう。


この建物で、5限に講義があるのだろうか。


なんて思っていると、近づいてくるその姿に、既視感を覚える。


あの傘に、あの歩き方。


もしや、と思っているうちにも、その姿はどんどん近くなって来て、俺の予想はすぐに確信に変わっていく。そして、歩いて来た彼女は、俺の前で歩を止める。


水色の傘をくるりと回し、スカートを翻し、彼女はにやり、と笑ってこう言った。


「忘れん坊な誰かさんのために、可愛い彼女が傘のお届けですよ、先輩」

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