第8話 桜のちらつくお昼寝日和

あの後、俺が勝手に写真を撮ったことに気づいた蒼衣は、お返しとばかりに撮り返し、そのままお互いを撮り続けた。


そして、疲れ果てた俺たちは、元のベンチへと戻って来ている。


「体力の衰えを感じるな……」


「ですね……」


「というか、花見ってこんなに慌ただしい感じじゃないと思うんだが……」


どちらかといえば、今のように花を見ながら食事をして、会話を楽しむ、みたいなイメージだ。決してスマホのカメラで互いを取り合いながら走り回ったりはしない。


「楽しみ方はきっと人それぞれですよ。……まあ、走り回るのは違うと思いますけど」


「やっぱり思ってるんじゃねえか……」


「それはともかく、です」


そう言って、隣に座る蒼衣はぱたり、と俺の方へと倒れてくる。蒼衣の体は、肩を通り越して、俺の腿へ。


ぽすり、といつもの位置へと落ち着いた蒼衣は、姿勢を変えて仰向けになる。


蒼衣からの要求のふたつ目。膝枕だ。


「今からはゆっくりお花見しましょう」


「そうだな」


ふわり、と笑う蒼衣にそう言って、俺は彼女の髪を撫でる。


さらりとした髪の心地よい感触が手に伝わる。相変わらず、癖になる感覚だ。


蒼衣も撫でられるのが心地よいのか、目を閉じている。


「いい感じの気温と太陽光に気持ちいい風、桜の香り、そして先輩の膝枕と手……。最高です……」


「それはよかった」


この気候の昼寝は、間違いなく最高だろう。今日は、1年の内にそう多くない昼寝日和に違いない。


そう思いながら、しばらく撫で続けていると、蒼衣が不意に起き上がった。


蒼衣は、んっ、と声を漏らし両手を上げて伸びをする。強調される双丘から、なんとなく目を逸らした。……別に、もう凝視していてもなにか言われることは無いのだろうが、なんとなくだ。


「……もういいのか?」


普段より時間が短いせいか、少し物足りなさ、というか撫で足りなさを感じ、そう聞くと蒼衣は隣に座ってから、こう言った。


「はい。このままだと寝ちゃいそうなので。では、次は先輩の番ですよ」


「……え?」

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