第6話 小動物っぽいだろ?
あれから、しばらくあーんを続けさせられた俺の番はひとまず終わり。
「ほれ、口開けろ」
次は、俺があーん、をする番になっていた。
……めちゃくちゃ恥ずかしい。
自分もやっておいて今更だ、というのはそうなのだが、こっちはこっちで恥ずかしい。
蒼衣の小さく開いた口に卵焼きを放り込む。
何度か咀嚼した後、こくり、と喉が動く。その動きが艶かしくて、なんとなく視線を逸らす。
「……これ、外でやると思っていた以上に恥ずかしいですね」
「言い出したのお前だからな……」
言い出した側の蒼衣は、頬を朱に染めて目を逸らす。
「それはそうなんですけど……。やる前はいいかな、と思ってましたけど、改めてやると恥ずかしいな、と……」
「よし、ならやめるか?」
ここでやめる方がありがたい、なんて思っていると、蒼衣は首を横に振る。
「せっかくなのでもうちょっとだけ」
「やるのか……」
俺はやめる気しかなかったのだが、蒼衣にそう言われてしまえば仕方がない。俺は、ひと口大のウインナーを箸で掴む。
「ほれ」
「あむ」
もぐもぐと咀嚼している蒼衣を見ながら、俺は思った。
……なんだろう、この小動物への餌付け感は。
定期的に感じていることだが、蒼衣は少し小動物っぽさが表に出てくることがある。
可愛いのでまったく問題はないが、このタイミングで出てくると、餌付けしている気分になるのだ。
……実際、餌付けされて胃袋を掴まれたのは俺の方なわけだが。
俺の視線に気づいたのか、蒼衣は首を傾げる。
「どうかしました?」
「……いや、なんでもない」
「先輩の中で何かが自己完結した感じですかね」
「微妙に合ってるな。……じゃなくて、安易に俺の思考を読むんじゃねえ」
「先輩がわかりやすいんですってば。ちなみに、何考えてたんですか? わたしの読みだとわたし関係だと思うんですけど」
どうです? とばかりにこちらを見る蒼衣に、ひとつため息を吐いて。
「……当たりだ。食べてるお前が小動物っぽいな、と」
「そうですか?」
「俺から見れば、な」
そう言って、俺は唐揚げをひとつ箸で掴み、蒼衣の前へ持っていく。
「ほい」
「あむ」
そして、またもぐもぐと食べる蒼衣が気付かない間にスマホを向ける。そして、画面に1度触れる。
パシャリ、と静かな公園に音が響いた。
「!?」
驚いた蒼衣がこちらを向く。その視線の先に、俺はスマホの画面を見せた。
「ほら、小動物っぽいだろ?」
その画面には、今し方俺が撮った蒼衣の写真が表示されている。
こくり、と飲み込んでから、蒼衣はぷくり、と頬を膨らました。
「急に撮らないでください! なんだか微妙に可愛く写ってない気がします!」
「そうか? いい感じに撮れたと思うんだが……」
改めて見るが、もこもこと食べている蒼衣は結構可愛い。
そう思っていると、正面からパシャリ、と音が聞こえた。
「……撮った?」
「撮りました。これでおあいこです」
「いや、まあいいんだが。どんな感じなんだ?」
「こんな感じです」
蒼衣の見せてきたスマホの画面には、俺の写真が写っている。……のだが。
「……微妙だな」
「うーん……さすがにわたしもそう思いますね」
なんともまあ、ブレていたりと微妙な1枚だ。これが準備して撮ったのなら、間違いなく失敗作だろう。
そう思っていると、蒼衣が、ですけど、と続ける。
「先輩の写真ゲットです!」
そういえば撮ったり撮られたりしたことは無かった気がするな、と思いながら、俺はひとこと。
「……その写真いるか?」
「……ないよりかは」
蒼衣は、すっ、と目を逸らした。
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