第3話 からかう先輩

「あ、おにぎりの具はランダムですよ。梅、鮭、ツナマヨです」


俺がおにぎりの入った保冷バッグに手を突っ込むと、それを見た蒼衣がそう言った。


「ツナマヨ? コンビニ以外のツナマヨのおにぎりってはじめてだな」


そう言いながら、俺は保冷バッグからひとつおにぎりを取り出す。ラップを剥がし、ひとくち食べる。どうやら、今話題に挙げたツナマヨらしい。


「それは多分、ツナマヨおにぎりが傷みやすいからですね。基本的に夏とか長時間経ってから食べる場合とかは梅が具になっているのは痛みにくくなるからですよ」


「なるほど……。おにぎりひとつにも工夫がされてるのか」


なんて感心していると、蒼衣が補足をはじめた。


「ちなみに今日はすぐ食べるのでツナマヨも作りました」


しかし、俺は気になることがひとつ。


「なんでツナマヨ?」


ツナマヨが美味いことは明確。俺も好きな具だ。というか、1番好きな具だ。しかし、なぜあえてツナマヨなのか、というのは不思議なポイントだ。


普通、梅、鮭、とくれば、おかかだと思うのだが……?


そんな俺の疑問に、蒼衣はさも当然のようにしれっと答える。


「先輩、ツナマヨ好きですよね?」


「……俺、蒼衣にコンビニおにぎりの1番好きな具って言ったことあったか?」


「多分ないと思います。でもツナマヨですよね?」


「いや、あってるが……」


「先輩のことはほとんどわかりますよ。お見通しです」


どや、と自慢げな蒼衣を見つつ、思わず微妙な表情になる。


「ちょっと怖い……」


「な!? 怖くないですよ! というか、食べ物に関してはいつも先輩の好み通りに作ってるんですから、味の好みの傾向で何が好きかくらいはわかりますよ!」


「とはいえ、なあ……?」


「なんでちょっと引いてるんですか!?」


「一応引いておこうかと」


「そんな一応いりませんよ!」


頬を膨らませた蒼衣は、保冷バッグからおにぎりを取り出し、ひとつ頬張る。もこもことリスのように頬を膨らませ、食べている様子に小動物っぽさを感じる。


にしても、蒼衣をからかうのも、結構楽しいな……。


なんて思いながら、残りのおにぎりを口に放り込む。


ちらり、と見た蒼衣は、梅だったのか酸っぱそうに両目を瞑っていた。


……俺も、蒼衣のことをもっと理解していきたいな。


そう思い、俺はとりあえずひとつ、発見したことを覚えておくことにした。


どうやら、梅干しは得意ではないらしい。

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