第7話 雪城雄黄と結婚話

「それじゃあ先輩、おやすみなさい」


「おう、おやすみ」


冷たい空気に体を震わせるながら、雨空を見送る。


心配性だ、なんて言われてすぐ後に、エントランスまで見送るのはなんとなく嫌というか、恥ずかしいのだが、もはやこれも習慣だ。


ゆるりと歩く雨空を見ながら、ふと先ほどの会話を思い出す。


結婚、か。


結婚なんて、1年前には欠片も考えていなかった。結婚は人生の墓場、なんて言われていることも知っていたし、独身の自由が無くなる方がデメリットに感じられて、まったく魅力を感じなかった。……まあ、相手がいなかったのもある。


それが今となっては、それも悪くない、なんて思っている。


今の関係は、ずっとは続かない。


それでも、続けていたいと思うなら、そのときの流れに合わせて変えていかなければならないんだろう。


だから、きっと最終目標はそこだ。


……まだ、その事前段階にすら達していないのだが。


「……」


小さくため息を吐く。


エントランスの入り口に着いた雨空が、こちらを振り返り、軽く手を振った。


それに苦笑しながら手を振り返す。


満足したのか、雨空はエントランスへと入っていった。


「……なにか、きっかけがあればなあ……」


そんな弱音をこぼしつつ、部屋へと戻る。


まあ、考えることは山ほどあるが。


「とりあえずはこれ、か……」


適当に放置していたハガキを手に取る。書かれているのは、成人式の案内だ。


正直面倒だが……まあ、スーツも買ったし、なあ……。


ここから、大学の講義が再開し、課題やテストにも追われることになるのだと思うと、頭がパンクしそうになる。


……よし。


「寝るか」


そう呟いて、考えることすべてを放棄して、俺はベッドへと飛び込んだ。

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