第2話 離れる離れず離さず

所変わって最寄駅から2駅隣。数日前にも来たショッピングモールだ。新鮮味のない光景ではあるが、明らかに元旦よりも人の量は少ない。


「さて、と」


自動ドアをくぐった先にある、モール内マップを見る。普段、スーツやらなにやらを売っている店に行くことなどないので、どこにあるのかもわからないのだ。


そう思い、マップを確認したのだが。


「……多いな」


スーツを扱っているのであろう似たような店が大量にある。


「うーん、どこがいいんでしょう」


雨空と2人で覗き込むが、正直、まったくわからねえ……。


「とりあえず、端から見てみるか」


「そうですね。そうしてみましょう」


と、なるとまずは……。


「3階から、だな」


このショッピングモールは、立体駐車場を除いた3階建になっている。見た感じ、2階に目当てのジャンルの店が固まっている感じがするので、3階にぽつぽつとあるところを見てから行くのがいいだろう。


「じゃあ上がりましょうか」


そう言って、雨空が俺の手を引く。


どうやら、俺にあれこれ着せるのが楽しみらしい。……俺はマネキンじゃないんだよなあ。


そう思いながら、手を握られ引かれるままに歩き、エスカレーターで3階へと向かう。


動く床に任せてぼーっと立っていると、ひとつ上の段にいる雨空がこちらを見る。


「先輩、気づいてますか?」


目を細めながら笑う雨空。


「気づく? 何にだ?」


「さあ、なんでしょう?」


……何か、あるか?


俺の見た目におかしなところはない……と思う。となると、雨空だろうか。


……。


いや、別に変わったところは無いと思う。


髪を切ったわけでも、染めたわけでもなさそうだ。アクセサリーが増えたわけでもないし、服装に変わったところは見られない。普段通りだ。……改めて、意識しながら見るとやっぱり可愛いなこいつ……。


他、他……か。


あ、ネイル、とかか?


……いや、していないな。というか雨空がネイルをしているところを見たことがない。


うーん、わからねえな。


「ダメだ、わからねえ」


3階に着いたので、エスカレーターから降りながら、降参だ、と雨空と繋がれていない方の手をあげる。


すると、なぜか、してやったり、という顔で雨空がくい、と俺の手を引く。


「正解は、これです」


「……?」


目線の高さまであげられたのは、俺の手──正確には、俺と雨空の手、だ。


「……これが、正解?」


まったくわからねえ……。


そう思っていると、雨空がどや、と解説をはじめる。


「先輩、わたしと手を繋ぐのが普通になってるんですよ」


「……あっ!」


ふふん、となぜかドヤ顔の雨空と、繋がれた手を見る。


この間、クリスマスにあれだけ頑張って繋いだ手が、もう普通になっている……なぜだ……?


そこで、ふと思い出す。


ああ、元旦の初詣のせいだ。おそらく、だが。


あのとき、雨空が腕に絡み付いた状態であちこち歩き回ったせいで、感覚が麻痺したのだろう。


まったく気づかなかった自分に驚きつつも、どこか、これもいい変化だろうと思う。


距離が近づいて、俺の気持ちにも変化がある証拠なのだから。


「ふふふ、先輩の無意識にわたしがちょっとずつ入る計画は順調ですね……!」


先ほどからのドヤ顔の理由はそれか。いつぞやにも聞いた計画だが、恐ろしいことこの上ない計画である。


「不穏なこと言ってるな……。まあいい、行くぞ」


「……ぁ」


そう言って、繋いだ手はそのままに、歩きはじめる。


てっきり離されるだろうと思っていたのか、雨空が意外そうな顔をして、それから少し顔を赤くしながら、隣へと追いついてくる。


「もう、待ってくださいよ、先輩」


「別に置いていってねえよ」


「そうですけど、そうじゃなくて!」


大学もあるので、常に、というわけにはいかないが、たまに出かけるときくらいは、手を繋いでいてもいいかもしれない。


そう思い、ほんの少しだけ力を込める。それに返事をするように、優しく握られる感覚。


ああ、いずれ離さなければならないことが、残念でたまらない。


けれど、それだけでは、離れないのだろう。


きっと、お互いに、お互いを離すつもりはないのだから。

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