第5話 ぷれぜんとふぉーゆー

「ご馳走様でした。美味しかったです!」


「おう」


あれから、俺は肉を焼き続け、最初に頼んだ分がなくなり、タンを追加で頼んで食べてから店を出た。思っていたより会計が高く、現金が足りずにクレジットカードで払うことになった。今月の請求額が恐ろしい。


それほど距離のない道を歩き、俺の部屋へと戻る。冷たい風が、程よく火照った体を冷やす──だけではなく。


「やっぱり寒いな……」


「……ですね」


エアコンのない室内は、極寒、とまではいかないものの、やはり温度が下がっている。


「ヒーター買うか……」


「その方がいいと思いますよ。……というか、ありがたいです」


「たしかに、俺は布団にいればいいけど雨空はそうもいかないしな」


「別にわたし、先輩と一緒のお布団でも……」


そこで、何を言っているのか自覚したらしく、雨空が、ぼん、と顔を赤くする。


「……」


「……」


「よし、ヒーター買うぞ」


「はい、お願いします……」


今月は出費が多く、厳しいが、まあ必要経費だ。雨空が来なくなって、美味い食事がなくなるよりはいい。


あとで、適当に安いヒーターを通販で購入しておこう。


「さて、と……。雨空、ケーキ食うか?」


「あ、食べます!」


少しずつ顔の色が元に戻りはじめた雨空にそう問いかけると、きらん、と目が光る。そして、雨空は台所に移動し、ケトルでお湯を沸かしはじめた。


「相変わらず、手際がいいな……」


「スイーツは正義なんです! スイーツを美味しく食べることに妥協はしません」


「そ、そうか……」


来年の誕生日は、スイーツバイキングにでも連れて行く方が喜んでくれるのだろうか……。


そう思いながら、皿とフォークを準備し、箱からケーキを取り出して皿に載せる。


かちり、という音が聞こえると、直後に部屋に紅茶の香りが広がった。


雨空がマグカップ両手にこちらへと来る。


「わあ、美味しそうですね! 見慣れない店名ですけど、どこのお店ですか?」


「ふたつ向こうの駅の近くにあった」


「へえ、まったく知りませんでした。……あれ? 先輩、いつの間に行ってたんですか? というか、珍しいですね。先輩がショッピングモールに行くなんて」


首を傾げる雨空。タイミング的には、ここでいいだろうか。


「まあ、これを買いに、な」


「これって……!」


驚いた顔の雨空に、綺麗に包装された包みを渡す。


「開けてもいいですか?」


「おう」


雨空は、丁寧な手つきで包装を解く。


……緊張してきたな。


「マフラー、ですか?」


包装の中にあったのは、ベージュをベースカラーにしたマフラーだ。


「おう、その、最近首元寒そうだな、と思ってな」


俺がマフラーをプレゼントに選んだのには、理由がある。


ほぼ毎日顔を合わせている中で、雨空はいつもマフラーをしていなかった。ずっと首元が寒そうだな、とは思っていたのだ。それに、実用性のあるものの方がありがたいだろう。


という考えから、マフラーにしたのだが。


……よく考えてみれば、彼氏でもない男からマフラーのプレゼントって、重いのでは?


ということに、買ってから気が付いてしまったのだ。


「……えへへ、ありがとうございます」


だが、そんな俺の考えは杞憂だったらしく、雨空ははにかんで、マフラーをくるくると首に巻いた。


「どうです? 似合ってますか?」


「……おう、いいと思うぞ」


「ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」


そう言って笑う雨空は、とても可愛かった。

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