第2話 慣れないこと

いつも通りに講義を受け、いつも通りに帰宅する──わけではなく。


俺はひとり、最寄駅からふた駅向こうのショッピングモールにいた。


雨空への誕生日プレゼントを買うために、である。


先に断っておくが、決して忘れていたとか、当日まで買いに来なかったとか、そういうわけではない。取り置きしておいてもらったものを受け取りに来たのだ。


わざわざ当日にしたことには、しっかりと理由がある。


俺の部屋を掃除しているのは雨空であり、おおよそのことを管理している。


つまり、プレゼントを隠すことが出来ないのだ。


そのため、わざわざ当日に受け取りに来ているのだ。


モノを確認して、金を払い受け取る。


……不安になってきたな……。


俺は、これまで20年間、人生で一度も異性にプレゼントというものをしたことがないのだ。


本当にこれでいいのかどうか、不安になる。


……まあ、悩んだところでどうにもならないのだが。


大丈夫だろう、と思い込みつつ、ショッピングモールを出て、駅へと向かう。


その道すがらに見つけたケーキ屋で、普段のお高いケーキよりもさらにお高いケーキを購入する。奮発だ。財布の中身が心許ないことになっているが、こういう日に出し惜しみはしない。……しないぞ、本当だ。


ケーキ屋を出て、今度こそ駅へと向かう。


電車に乗り、ふた駅経ったら最寄駅で降りる。


歩き慣れた道を通り、アパートの階段を上り、部屋の扉に鍵を差し込み、回す。


なんとか、雨空の帰宅前には間に合ったらしい。


冷蔵庫にケーキを入れ、一応プレゼントを隠しておく。


「……慣れないことをすると、緊張するし疲れるな……」


まだはじまってすらいないが。


そんなことを呟き、ひとつ息を吐く。


「ただいまです」


すると、扉の開く音と共に、雨空の声がした。


「おう、おかえり」


さて、頑張るしかない。

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