第4話 誤魔化しただけです
期待外れの学祭から離れ、帰宅する時間には、もう夕方になっていた。
出店で昼食をとる予定だったが、何も買わずに帰ることにしたので、駅前へと寄り、回転寿司屋で寿司を持ち帰りで購入し、帰宅した。
「なんというか、まあ、2度と行かないな」
床に座り、背中をベッドに預けながら、そう言うと、対面の雨空が机に突っ伏しながら、こちらを見る。
「ですね……。あれならゆっくりお休みを満喫したいです」
期待しない、と言いながらも、どこかに期待感はあったらしく、雨空のテンションの下がり方、というか精神的ダメージは大きい。
雨空は、はぁ、とひとつため息をついて、立ち上がる。
「気を取り直して、お昼ご飯、もとい夜ご飯にしましょう!」
そう言って、台所へと向かう雨空を横目に、俺は机に置かれた持ち帰りの寿司の容器を袋から取り出す。
マグロ、サーモン、はまち、エビ、いくら、といったように、定番のメニューが25皿分入った最もスタンダードなものだ。
うん、美味そう。
ててて、と雨空が、台所から小皿を持ってくる。
「お醤油用です」
「さんきゅ」
それを受け取り、雨空に割り箸を渡す。
準備は万端。あとは食べるだけ、というタイミングで、インターホンが鳴った。
「……? 珍しい時間ですね。この時間に宅配便なんて、ほとんど来ないんですけど」
そう呟きながら、雨空は玄関へと向かうべく、立ち上がる。
「雨空ー、落とすなよー」
俺は、その背中に声をかけて──
財布を放り投げた。
「わ!? 急に投げないでくださいよ! ……というか、着払いですか?」
見事に振り向くと同時に財布をキャッチした雨空は、首を傾げる。
普段はクレジットカード払いにしているので、今まで着払いは珍しいどころか一度もない。それもあってか、不思議そうにこちらを見る雨空。
「出ればわかる」
「は、はあ……」
雨空は、そのまま疑問符を浮かべながら、玄関へと向かう。
それからすぐに、雨空は片手に財布、そして、もう片手に袋を持って、部屋へと戻ってきた。
「いつの間に頼んだんですか、これ!」
その手に握られている袋には、ピザ屋のロゴが入っている。
「寿司屋の待ち時間にピザも食いたいなあ、と思って」
そんなわけで、俺は勝手にピザも頼んでおいたのだ。
「……これ、食べ切れます?」
寿司25皿分、つまりは50貫と、ピザのLサイズが2枚。
「……まあ、夜含めてならいけるだろ」
「……予想よりピザが大きかった、と思っている顔ですね」
「……お前、俺の考え読みすぎだろ……」
普段から読まれがちではあるが、今日は格段に読まれる。なんというか、怖い。
「今日は特にわかりやすいですからね。状況が特殊なので」
「……なるほど」
相変わらず、なぜか雨空だけには思考を読まれることが謎だが、深く考えるのはやめておく。雨空も、前に俺は考えがわかりやすいと言っていたことがあったから、俺の問題なのかもしれない。
……他のやつには読まれることはまったくないのだが。
やはり謎だな、と思っていると、雨空がピザを開けながら、口を開く。
「先輩がわかりやすい理由、前は誤魔化しましたけど、単純なことですよ」
「またナチュラルに読んだな……。で、その理由ってなんなんだ?」
「わたしが先輩をよく見ているから、です」
「……それ、俺がわかりやすいんじゃなくて、お前が読めるようになっただけじゃねえか?」
「……そこも誤魔化しただけです。……ピザが冷める前に食べましょう!」
あからさまな話題転換だったが、まあ、深堀りはしないでおこう。
なんとなく、俺も火傷する気がする。
「……そうだな、食うか」
そうして、ただの平日の休みに、プチパーティー状態の食事がはじまった。
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