第5話 それはジャンクフードではないです

目の前に広がるのは、寿司とピザ。


それを食べた感想など、ひとつしかない。


「美味い……! やはりジャンクフードは最高だ……!」


雨空の料理に一切不満はないが、それとこれとは話が別だ。ジャンクフードには他にはない、体に悪いものを食べている、という背徳感がある。それがまた癖になる。


「先輩、お寿司はジャンクフードじゃないですよ」


そう言って、雨空がピザを口に運ぶ。はむ、とひと口。


すると、幸せそうに顔が緩む。


「久しぶりに食べましたけど、やっぱり宅配ピザって美味しいですね!」


「わかる。冷凍ピザにはこの味は再現できないよな」


「まあ、その分高いですけど……」


1枚2000円くらいするからな……。


「いいんだよ。毎日食うわけでもないし、たまの贅沢くらいは」


「……それもそうですね。人生彩りが大切です」


「そういうことだ」


そう言いながら、2切れ目のピザへと手を伸ばす。


今食べているのが、マルゲリータ。そして、食べ切れないと踏んだ雨空が、箱を開けずに置いているもう一方がポテトマヨだ。


ポテトマヨ、なぜか不評だったりすることもあって、よくわからないんだよな……美味いのに。


「その箱のピザ、ポテトマヨなんだが、雨空はポテトマヨ好きなタイプか?」


机の横に置かれた箱を指差す。マルゲリータ美味いな。定番には定番の良さがある。


「え? 普通に好きですけど……どういうことですか?」


きょとん、とする雨空。


ピザの耳を食べ終えてから、先ほど考えていたことを口にする。


「ポテトマヨ、あんまり好きじゃない人が結構いるからどっちなのかと思って」


「好きじゃない人なんているんですか!?」


「それがいるんだよな……」


「なぜ……?」


「重いんだと」


「あぁ……なるほど……」


「わかってねえよな。それがいいのに」


「……まあ、太りそうといいますか、カロリーが高そうなのは認めますけど」


俺の言葉に、雨空は複雑そうな顔でそう返す。雨空も例に漏れず、カロリーは気になるらしい。


「でも、美味いからなあ」


「そうなんですよね……。ま、まあ普段から栄養バランスを考えて、ヘルシーな食事をして、運動もすれば1日くらい食べても……1日、くらい……」


最初は自分に言い聞かせるように、後半は苦悩に満ちたように言いながら、雨空は目つきを険しくしている。


「ピザを睨むな」


「きゅ、急に悪いことをしている気が……。というか、ピザのカロリーさえ無ければ……!」


「無茶言うんじゃねえよ……」


カロリーのないピザはもはやピザではない。


「1日くらい大丈夫だろ。お前細いし大丈夫大丈夫」


適当にそう言うと、雨空はバッと顔を上げて、


「先輩が言うなら大丈夫ですね! 大切なのは、先輩に細いと思われていることです!」


そう言ってピザをひと切れ手に取った。


「それでいいのか……?」


「それでいいんです! むしろそれ以外は必要ないです!」


ピザをもぐもぐしはじめた雨空を見る。


まあ、雨空がそれでいいならいいが……。俺、服着てる状態しか知らないからな? 太ったとかすぐには分からないから、手遅れになるまで細いって言うと思うぞ……。


そんな俺の心の声はいざ知らず、雨空は続けてピザをもぐもぐしていた。ちょっと小動物感があって可愛いなこいつ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る