第5話 謎の課題と既視感

4限を乗り越えた俺は、帰路へと着いていた。よくわからない講義を取ったら、よくわからない課題が出てしまい、少し困惑している。


が、まあ提出期限はまだまだ先らしいので、今は深く考えることをやめておこう。未来の俺が頑張るだろう。


間違いなく未来の俺が苦しむであろう考え方をしながら、ポロアパートの鍵のかかっていないドアを開ける。


……よく考えてみれば不用心だな。俺が鍵をかけないのはともかく、雨空には鍵を閉めるように言っておこう。


「ただいま」


「あ、おかえりなさい」


ぴょこ、と通路の先から、雨空が顔を出した。


手にはプリントを持っているらしい。


「今日の講義のプリントか?」


「はい。初日から課題が出たので」


そう言って、雨空はプリントにペンを走らせている。どうやら、2枚あるうちの片方が講義プリント、いわゆるレジュメと言われるやつだ。そしてもう片方が、提出用のレポート用紙らしい。


「ん……?」


見たことあるな、このプリント……。


謎の既視感に苛まれていると、雨空がこっちを向いた。


「どうしたんです?」


「いや、なんか見たことある気がするんだよな……」


「受けたことあるんじゃないですか?」


「あ、そうだ。俺も一回生の後期に取った気がする」


そう言って、部屋の端に置かれている段ボールのうちのひとつを開ける。


中には、大量のプリントが入っている。俺の受けてきた講義のプリントだ。


束になったプリントを出していくと、半分ほど進んだところでそれは見つかった。


「あー、やっぱり受けてたみたいだな。まったく同じプリントがある」


今、俺の手にあるプリントの束は、雨空が持っているプリントを含めて、その講義のすべてのプリントがまとめられている。


「一応、真面目に受けてた時期のだから色々書き込んであるけど、いるか?」


「いいんですか?」


「おう。もう使わないし」


実際、捨てるのが面倒で置いてあるだけなのだ。誰かの単位の救いになるなら、その方がよっぽど良い。


「じゃあ、ありがたく使わせてもらいますね」


ほい、と束を渡す。


それを受け取った雨空は、パラパラと確認していく。


「……課題が結構あるんですね……」


「ああ、しんどい講義だったぞ……」


明らかに肩を落とす雨空に苦笑しながら、散らかしたプリントを段ボールへと戻す。


「まあ、取ってしまったものは仕方ないですね」


そう言って、気を取り直した雨空は、またプリントへと向き合っている。恐らく、今日か明日くらいには課題を終わらせておくつもりなのだろう。


……俺もやるか。


そう思い、4限のよくわからない課題のための調べものをするべく、ノートパソコンを起動した。

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