エピローグ 次の約束
すべての花火を終えた俺たちは、後片付けを済ませ、いつもより少し早いがその場で解散することにした。
「それでは先輩、今日はありがとうございました。楽しかったです」
「おう、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「……なあ」
隣のマンションへと歩きはじめる雨空に、つい声をかける。
「はい」
くるり、と振り向く雨空。俺は、何が言いたくて声をかけたのかわからず、口籠ってしまう。
「あー、えーっと……」
「?」
首を傾げる雨空。がしがしと頭を掻き、素直に思っていることを告げることにした。
言葉にせずとも、きっと互いにそのつもりだったのであろうことを、なんとなく、言葉にしておきたかった。
「その、あれだ。また、来年も一緒に行けるといいな」
あまりの気恥ずかしさに思わず目を逸らす。
そんな俺を見て、雨空はくすり、と笑う。
そして、
「そうですね。来年も、一緒に行きましょう。約束、ですよ?」
「……ああ」
そんな短い返事に、満足気に頷くと、雨空は今度こそマンションへと向かう。
その足取りは、軽やかで、なんだか楽しそうに見えた。
案外、そう遠くないうちに俺の抱える想いは大きくなりすぎるのかもしれない。
それこそ、彼女の思惑通り、耐えられないほどに。
恥ずかしくなる思考に、思わず空を見上げて息を吐く。
満天の、とまではいかなくとも、それなりの星々が夜空には輝いていた。
……今度は、花火のように派手でなくとも、素朴でそれでいて力強い、そんな星を見るのも良いかもしれない。
そんなことを考えて。
俺は夏祭りという非日常から、平凡な日常へ戻るべく、自室へと古びた階段を登りはじめた。
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