第6話 夢、壊れる
「お、おお、おおおおー! 先輩、金魚が! ほんとに金魚すくいがあります!」
「金魚すくいでそこまでテンション上がるのは小学生とお前ぐらいだぞ」
「あ! あっちはお面が売ってます! わたがしも! すごい……!」
子どものようにはしゃぐ雨空を見て、苦笑が漏れる。
まあ、楽しそうで何よりだ。
「先輩、あれは?」
雨空が指差す先には一つの出店。そこには所狭しと豪華な景品が並べられている。最新ゲーム機に有名なボードゲーム。はたまたテレビまである豪華さだ。
「ああ、あれはくじだな」
「あれが当たるんですか!?」
驚く雨空に、俺は一言。
「当たらねえ」
「当たらないんですか!?」
さらに驚く雨空に、俺は説明をする。
「祭りにあるくじってのは大体当たらないようになってるんだよ。後ろにあるのも箱だけって話だ。実際俺も当たったことない」
昨年の祭りで散財したことは記憶に新しい。
なんで大学生にもなっておもしろ消しゴムを5つも持たねばならんのだ。いらんわ。
「なんか、夢が壊れますね……。あ、じゃああれはなんです?」
次に雨空が指差したのは、くじの出店と反対側の列にある、お菓子の箱やぬいぐるみが等間隔に並べられた出店だ。
「ん? ああ、あれは射的だな」
「あれが射的! 銃で撃って倒すんですよね?」
「そうそう。コルクの弾を詰めて撃つんだよ。で、倒したら貰える。……が、倒れない」
「倒れない!? 当たらないじゃなくてですか?」
またも驚く雨空に、俺はまた続ける。
「まあ、当てるのが難しいってのもたしかにあるんだけどな……。当たっても倒れないんだよ、あれ。お菓子の箱とかも中身をめちゃくちゃ重くしてるとか、後ろを固定してるとか、色々言われてる。実際俺も倒せたことない」
くじと同じく、これも散財したのがしっかり記憶に残っている。あれだけ当てたんだからキャラメル一箱くらい倒れてもいいじゃないか。微動だにしないってどういうことだよ。
「ど、どんどん夢が……。……金魚すくい、取れないとかないですよね?」
「それは安心しろ。金魚すくいとスーパーボールすくいだけは取れる。取れなくてもちょっとくれることが多い」
あのふたつだけは、良心的だよなあ……。
「……わたし、とりあえず金魚すくいはすることにします。他のは……保留で……」
夢を砕かれた雨空は、少し大人びた目をしていた。
「よ、よし、気を取り直して進むぞ。出店の醍醐味は飯だからな!」
「そ、そうですね! わたし、りんご飴食べてみたいです!」
無理にテンションを引き上げた俺たちは、そのまま奥へと突き進んで行った。
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