第2話 たまには贅沢を

「まずは……今日の夕飯をなににするかから考えましょう」


「通常営業だ……」


スーパーに着くなり俺は買い物カートを持って入店。


「そりゃあそうですよ。台風が来ようが来まいが、今日の夕飯は作るんですから」


そう言いながら、雨空は俺の押す買い物カートにカゴを乗せる。


「まあそれもそうか」


「はい、ということで先輩。今晩の希望はあります?」


「そうだな……たまには刺身とかにするか」


「ん、お刺身ですか。いいですね。ならひとまずお野菜はあんまり買わない方向で行きましょう」


冷蔵庫にもまだありますし、と付け加えつつ、雨空は生鮮コーナーへと向かう。


それにゴロゴロと買い物カートと共に着いていく。なんだか子供の頃に、母親に付いて回って買い物していたことを思い出した。


「マグロは……あ、こっちの方が綺麗かな」


雨空は、いくつかのマグロのパックをカゴへと入れる。


そこで、ふと目に入ったパックがあった。


「お、サーモン買おうぜ。俺一番サーモンが好きなんだよ」


「あー、サーモン美味しいですよね。脂がしっかり載ってるやつが特に」


言うが早いか、早速雨空はサーモンの物色をはじめた。


「そうなんだよなあ。やべえ、寿司食いたくなってきた」


「わからなくもないですけど……。あ、いっそ海鮮丼とかにしちゃいます? イクラも売ってますし」


サーモンをカゴに入れた雨空は、ぴっ、と指で隣を指す。

そこには、少量のイクラの入ったパックが売っていた。


「いいな……よし、今日は海鮮丼にしよう」


多少高くはなるが、欲望に勝てるものなし。食いたいものを食って生きていきたい。


「おっけーです。じゃあイクラも買っちゃいましょう」


これでマグロ、サーモン、イクラの海鮮丼だ。


「あ、大葉取ってくるのでちょっと待っててください」


「ん? それなら俺が取りに行っとくからそのまま見てていいぞ」


「そうですか? ならお願いします。新鮮そうなのでお願いしますね」


「おうよ。せっかくの海鮮丼で大葉がしなしなじゃあテンション下がるもんな」


そう言って、俺はカートを押しながら大葉を回収しに野菜コーナーへ。


どれが新鮮とかはわからないが、まあしゃきっとしてるものを選べばいいだろう。

と思っていたのだが。


「うーん……わからねえ。どれもあんまり変わんねえ気がするな……」


千切られた葉っぱの新鮮度合いやら良し悪しやらなんて、わかるはずもなかった。

そもそもスーパーで売られている時点で似たような鮮度なのだろう。


結局俺は、直感で一番新鮮そうな大葉を選び、雨空を探す。


雨空は、先ほどの魚のコーナーの隣、肉のコーナーにいた。


そこへと移動し、雨空の後ろ姿へ声を掛けると──


「なあ、これでいい……お前、その量買うのか?」


豚の切り落としのパックを3つ抱えていた。

おおよそ1パック1キロの切り落としを3つ。つまりは3キロだ。誰がその量食うんだ。


「はい、買います。切り落としは便利ですからね。それに」


「それに?」


「わたしが行かない日の先輩がよく使うじゃないですか」


「ああ、なるほど」


最近俺は、雨空が来ない日は自炊をするようになっていた。

正確にはインスタント食品をなるべく食べないようにしているだけで、自炊といっても米を炊くくらいなのだが。


大体は雨空の作り置きしてくれたおかずを食べている。


しかし、もちろんいつも作り置きがあるわけでもなく。

そういう時は、冷凍庫に保存されている豚の切り落としを雑に焼いて雑に味付けし、食べているのだ。


「どうせ先輩、3キロなんてすぐ食べきってますし、今日安いみたいなので買っておこうかな、と」


「なるほどな。そりゃ助かる」


俺の冷蔵庫の管理はすべて雨空がしている。……改めて考えると異常だな。

というか、俺ってそんなに肉食ってたのか。衝撃だ。


「それじゃあそろそろ本題の保存食に行きましょうか」


「おう。まずは……缶詰だな」


「缶詰って便利ですよね。ちょっと一品足りないなーっていうときに開けるとちょうどいい感じになりますし」


「まあわからんでもない。俺は基本サバ缶くらいしか食わねえけどな」


「サバ缶、種類いっぱいありますもんね。それに美味しいですし」


そんな話をしながら、俺と雨空はカゴへとサバ缶を放り込んでいく。とりあえず各味3つくらい入れとくか。


「そうそう。あと安い。あ、あとはあれだ。ツナ缶」


「ツナ缶ですか?」


ツナ缶の使用用途が謎なのか、首を傾げる雨空。


「ツナ缶って便利なんだぞ。マヨネーズと和えるだけで米に乗せて食えるし、それをパンに乗せても美味い。それだけじゃなくてうどんとかそうめんにも使えるときたもんだ。あいつはすごい」


「先輩のツナ缶への愛が重い……。わたしはあんまりツナ缶使わないので、言われてみればって感じです。それで先輩の家にはツナ缶が常備されてたんですね。やっと謎が解けました」


「そういうことだ。なんなら今度ツナ缶使ってなんか作ろうか?」


「おお? 先輩が珍しく料理をわたしに?」


何の気なしに言った俺の一言に、雨空が目を輝かせて食いついてくる。


「激レアみたいにいうなよ。この間もオムライス作っただろ」


「……あれ、いつか覚えてます?」


「……6月の頭だから、1ヶ月前くらいだな」


「まあまあレアですよ。わたし、あれ以外に先輩の料理ご馳走になってないですし」


「言われてみればたしかに……」


そういえばあのとき、他に作れるやつも気が向いたら作るって言った覚えがある。

……今度、作ってやろう。


「まあ、先輩の料理がレアなのはともかく、ツナ缶も買っておきましょうか」


「お、おう。最近減りが早いから足しておこう」


そう言って、俺はツナ缶の3個パックをひとつ、カゴへと入れる。


「あ、わたしも買います」


「ん、同じのでいいか?」


「はい」


俺は、さっきと同じ3個パックのツナ缶をもうひとつカゴ入れた。


「では、次は先輩の大好きなあのコーナーです」


「お、インスタントだな。血が騒ぐ」


「先輩のインスタント愛は遺伝子レベルなんですか?」


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