COVID-26 2028年

COVID-26

第1話 父さんへの手紙

長い消毒用の真っ白なトンネルを抜けて、仮設住宅の軽いそして味気ない扉を開ける。


玄関で靴のまま、体重計に乗り、そして体温を測る。

スマホでデータを送信して、10秒くらい待ち、部屋の電気が点灯する。

そのまま、洋服を脱いで、全部洗濯機に突っ込み、熱いシャワーを受ける。

4月末だというのにまだまだ肌寒い。


シャワーを浴びながら、今日一日の出来事を振り返る。

Kエリアに来て、まだ1ヶ月だが、今日も殆ど人と喋ることがなかった。

喋るチャンスもあったが、、なんか気乗りしない日だった。

金曜日の夜だというのに明日の予定が何も浮かばない。

シャワーを浴びた後は、炭酸水を飲んでソファーでひとやすみ。

テレビをつけると、今日もCOVID-26の感染者のニュース。

Pエリアで、集団感染が発生して、既に3名の死亡が確認されたらしい。


テレビの横の2020年の5月の家族写真を眺めて、あの日が一番楽しかったと

思い出す。妹の灯里のこの笑顔が好きだ。


リモートワーク疲れで、父さんが珍しく外出しようと企画して、

GW明けに休みを取って、江ノ島の神社に行った時の写真だ。


あの後、父さんがCOVID-19に感染して、たった10日で死んだ。

母さんと灯里と僕は濃厚接触者として隔離された状態で、

父親とは何も話すことなく別れを告げた。


今でも、本当に自分の父親が亡くなったのか実感がわかない。

毎日亡くなった人のニュースを見ているせいなのかもしれない。

あまりにも簡単に死んでしまうので、簡単に生き返らせることもできる

とか頭のどこかで考え出しているのかもしれない。


人の生死に対する感情が確実におかしくなって来ていると思う。


父さん、何で世界はこんなに壊れてしまったんだろう。

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