第149話 勇者バージャス10

「あーあ、しょうがねえなぁ」

「流石に目の前で死んでいくのをみてられんねえし……」

「助けるかぁ……」


勇者バージャス達の戦いを見ていた冒険者達が、水中スクーターでマーマン達に向かった。


冒険者用の水中スクーターは速く、一瞬でマーマン達に近付き銛を放ち、3体のマーマンは串刺しになって倒された。


冒険者の一人は、急いで予備の呼吸器をバージャスの口にあてて呼吸させたので、バージャスも何とか息を吹き返した。


冒険者達は魔女ヴァユーと聖女ナリエも抱き抱え『海の洞窟』を脱出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


冒険者達に助けられた勇者バージャスはやっとの思いで、冒険者ギルドに戻って来た。


バージャス、ヴァユー、ナリエの3人は青い顔で精気が抜けたようにげっそりし、ヨロヨロと冒険者達に支えられながら歩いていきた。


そして冒険者ギルドの中に入ると酒場の椅子に腰掛け、テーブルに顔を伏せる。


(ぐふっ、もうダメ……)

疲れきったヴァユー。


(ひん、恥ずかしいよぉ……)

水着の上にバスタオルをまいて、両肩を抱きしめるナリエ。


「……」

無言で悔し涙を浮かべるバージャス。


「ナマドンさん、勇者バージャス達を救助して来ましたぁ」


冒険者の1人が受付嬢のナマドンに苦笑いしながら報告した。


「救助? 随分早いお帰りだけど、勇者様達は攻略に失敗したのね」


「あっはっはっはっは」

「攻略? 『海の洞窟』の入口でマーマンにやられてたぞ。初心者の方がマシだ」

「マーマンにやられ放題だったな」


「えええええええええ!」

驚くナマドン。


「此奴ら本当に勇者か?」

「マーマンに傷すら付けてないぞ」


「ふふふ、魔女ヴァユーは、マスクが外れて『マスク、マスク』って探してたしな」

「ぎゃははははは」


「聖女ナリエは、マーマンの三叉槍でウェットスーツを破かれるし…」

「そうそう、セクシーだったなぁ」


「バージャスは呼吸器を壊されて『ぶくぶく』してたぜ」

「ぎゃははははは、『息がぁ出来ないぃ』って白目を剥いてたしな」


「これからは此奴らの二つ名は『ぶくぶくバージャス』と『マスクヴァユー』と『ヌードナリエ』の3馬鹿トリオでいいんじゃね」


「幾ら水中の戦闘が地上より難しいって言っても、ありゃねえぜ」


「はぁ……」

溜息の後、何も言えなくなったナマドンであった。


冒険者達の嘲笑が聞こえるが、反論する気力すらなく、うな垂れるバージャス達。


のそりと立ち上がり、トボトボと冒険者ギルドを無言で後にする。


3人が薄らと涙を浮かべて、うな垂れてギルドを出て行くさまを、冒険者達は笑いながら見送る。


「ぎゃははははは、バージャスさんよぉ、水中ダンジョンには2度と潜らねえ方が良いぜ」

「あんたらには無理だ」

「そうそう、カッコばかりつけるからこんな事になるんだよぉ!」


(はぁ、勇者の称号に物言いが必要かしら)

と秘かに思うナマドンであった。

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