第140話 勇者バージャス

アカリフォルニの冒険者ギルドに併設されている食堂で、食事をする人魚のルアとブラックドッグのクロド。


クロドは椅子に座れないので、床に置いた従魔用の大皿に入った肉を食べている。


ルアは魚料理を注文し椅子に腰かけて食べる。


「ちょっといいかなぁ?」


ルアが座ってる席の向かいの椅子を引いて、腰掛けようとする冒険者風の男。


「モグモグ、何か用でしょうか? 食事中なので、遠慮してください」


ルアは男をチラ見した後、誘拐された事もあり、警戒しながら食事を続ける。


「それはすまない。食事が終わるのを待つよ」


男は席についてルアをじっと見ている。


(あぁ、断り方を間違った……。食事の後に話を聞く流れになっちゃったよぉ……)


ちょっと後悔するルアだった。


クロドはひたすら肉を貪る。


ルアが食事を終えると男が口を開いた。


「俺は勇者バージャス、君は『海の洞窟』攻略者であるユウマのパーティーメンバーのルアだね」


(勇者?)


人魚のルアは勇者が何であるかを知らない。

ルアは無言でバージャスを見る。


「返事がないのは肯定と受けとるよ。最も俺のスキルで君の正体も分かってるがね」


「正体?」


「君は人魚だ。この世界では人魚は亜人種には、含まれていない。寧ろモンスターの一種のはずだ」


「ふぇ……」

(拙いよぉ……)


「ここで正体をばらされたくなければ、水竜の杖をよこしな」


「水竜の杖を手に入れてリヴァイアサンを召喚しても、リヴァイアサンは言う事を聞かないわよ」


「そうらしいね。アカリフォルニの領主は、力もない癖に召喚して殺されたらしいが、俺は違う召喚した後、力で従えてみせる」


「ふ~ん。お断りします。」


「おいおい、人類の為に魔王を倒す俺に、最強の装備を集め無いでどうする? 君が俺の仲間になってくれてもいいんだぜ」


「水竜の杖はユウマ様から預かっているものなので、お渡し出来ません。そして貴方のパーティーに入る気もありません。その件でしたらこれ以上お話する気はありません。失礼します」


ルアは席を立つと、冒険者ギルドを後にし、クロドも無言でついていく。


「くくく……」


苦笑いのバージャスの背後に二人の女性が近付く。


一人は三角帽子で黒いマントコートを羽織った、黒髪でショートヘアーの魔女ヴァユー。


「バージャス、上手くいかなかった様ね」


「けっ、ここで彼女を人魚と糾弾しても、上手くいくかわからない。鑑定のスキルで人魚と分かっただけで上等だ。ルアはモンスターだった、討伐して所持品を手に入れても問題はない」


もう一人、修道服の聖女ナリエは、ルアが出ていったギルドの扉を睨む。


「モンスターは殺すべきです」


「聖女ナリエ、分かってるよ。面倒臭いユウマっていう冒険者が戻る前に、人魚とブラックドッグを殺して、水竜の杖をゲットだ」


勇者バージャスと魔女ヴァユー、聖女ナリエは勇者パーティーの3人組だった。


彼らは、勇者認定されたばかりのパーティーで、これから実力をつけて魔王と戦う為、修行と武器を集める為、各地を回っていた。

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