記録37 呪いのスーパーマスコット
猫又、勇者リザシオン、クローチェの変身魔法騒動から数日。
クローチェは大量の布地と糸を持って、ある人物を探していた。
「やっと見つけたー!ルナーリア〜!」
クローチェが名前を呼ぶと、前方で歩いていたサキュバスのルナーリアが振り返る。
「ひ、姫様……!?どうしたのですか?」
「ルナーリア、今日って暇……?」
「え、えぇ。今日は特に用事はないです」
ルナーリアがそう言うと、クローチェはパチンと手を合わせた。
「お願い、ルナーリア。マスコット作りを手伝って!」
「ま、マスコット作り……ですか?」
なぜ、クローチェがマスコット作りをしたいのか、その理由は……
「部屋の模様替えしようかなーって思って……それで、図書館に行って色んな本を読んでね、手芸の本に載ってたフェルトマスコットが可愛くて〜!それで、自分で作ろうと思ったんだけど……」
クローチェは持っていた箱を開ける。
そこには何やら丸まった布クズ……じゃなくて、作りかけのフェルトマスコットが入っていた。
「作り方がわかんなくなったの……ルナーリア、助けて〜!!」
「わ、私で良ければ……!」
「ルナーリアありがとうぅ〜!」
クローチェはルナーリアに抱きついた。
そんなわけで、クローチェとルナーリアはマスコット作りをすることに……。
「ひ、姫様……細かく縫わないと綿がはみ出してしまいます〜!」
「そっか!うぅ〜細かく縫うのってけっこう大変〜!」
クローチェが一生懸命縫っていると、何やら視線が……?
「むむ……?そこでコソコソしてるのは〜……マリー?」
クローチェがそう言うと、物陰から1人の少女……いや、人形が現れる。
球体関節の腕や足、血の気のない白い肌、身に纏うドレスには大小様々な歯車の飾りがついている。
人形のマリー。呪いの人形を作る仕事をしている子だ。
「作業の邪魔をしてはいけないと思っていたのデスガ……さすが姫様、あっという間に私の存在に気づきマシタネ!」
「何か私に用事?あ、それともルナーリアの方?」
クローチェがそう聞くと、マリーは首を横に振る。
「イエイエ……ちょっと通りかかっただけデス。姫様、こちらに置かれてる人形、手に取って見てもイイデスカ?」
「いいよ〜。というか、それ失敗しちゃったのだし……」
マリーはフェルトマスコット(失敗作)を手に取ると、色んな角度から眺める。
「コレ、とても素晴らしいデスネ!この波打った縫い目!ソシテ飛び出してる綿毛!」
「あぁ、それは雑に縫って失敗したところ……」
「ソシテ、左右非対称に配置された目!」
「ズレて縫っちゃった目ね……」
「ソシテ、長さが違う手足……とっても可愛いデス!」
「気に入ったなら、それあげるよ?」
「いいのデスカ、姫様!?」
「ゴミにしちゃうところだったし……気に入ったなら遠慮なく貰って〜!」
マリーは愛おしそうにマスコットを撫でた。
「でも……本当にいいの?もう少し待ってくれたら、綺麗に作ったマスコットを渡すよ」
クローチェはそう言って、ルナーリアに教えてもらいながら作ってる新たなマスコットを指さした。
しかし、マリーは首を横に振った。
「イエ……私は、これがいいデス。完璧ではナイ……しかし、滲み出る愛らしさや温もりがこのマスコットにはありマス」
マリーはそう言うと、足元に置いていたトランクを開けた。
そこには、一体の人形が静かに収まっていた。
「すご〜い……とっても綺麗な人形……」
クローチェとルナーリアはトランクの中の人形に釘付けだった。
「コレは、最近完成した『呪いのスーパードールバージョン9』デス!」
「おぉ!呪いのスーパードールシリーズの最新作!!それで、どんなところがバージョンアップしたの!?」
クローチェがキラキラした瞳でそう聞けば、マリーは説明する。
「今回は、防御面をパワーアップしまシタ!破壊されそうになった時に、シールドが出るようにシタのデス!ちなみに耐久時間は一時間ほどデス!姫様、試しに人形に炎を近づけてみてクダサイ」
マリーにそう言われ、クローチェは魔法で炎を作り出し、人形に近づける……。
パキッ!
人形の周りにガラス板のような壁が現れた!
「おぉ……!これですぐに破壊されるのを防ぐんだ!」
クローチェはまじまじと人形の周りの壁を見た。
更にマリーの説明は続く。
「マタ、今までは呪いたい相手のそばにこの呪いの人形を置くことで、悪夢を見せ、生命力、魔力を少しずつ吸い取り、じわじわと攻めてイマシタガ……」
マリーは近くにあった花瓶から花を一輪抜き取り、人形に触れさせると……
ルナーリアが声をあげる。
「あ、枯れていく……!」
人形に触れた花はみるみる枯れていった。
「呪いたい相手がこの人形に少し触れるだけで、かなりの量の生命力や魔力を吸い取れる機能を追加シタのデス!」
クローチェとルナーリアはパチパチと拍手をした。
マリーは照れ笑いをしたが、すぐに困ったような表情をした。
「しかし、私は悩んでいたノデス。他の魔族から、ビスクドールタイプではない呪いの人形が欲しいと言われテ……」
マリーはずっとビスクドールタイプの呪いの人形を作っていた。
しかし、他の魔族はもっと持ち運びがしやすくて、もっと可愛らしい人形がいいと言ってきたのだ。
どんなデザインの人形にするか、マリーは悩んだ。
「悩んで、悩んで……ソシテ、見つけたノデス!」
マリーは先程、クローチェから貰ったフェルトマスコットを手に取った。
手のひらサイズだし、ビスクドールと違いフェルトだから、持ち運びがしやすい。
そして、歪んだ縫い目やズレた位置の目……滲み出る愛らしさ。
「姫様、このマスコットで呪いの人形を作りたいノデス!いいデスカ?」
「もちろん、いいよ!せっかくだし、色んなタイプの呪いの人形があるといいよね。マリー、頑張って!」
「マ、マリーさん!私にも、て、手伝えることがあったらいつでも言ってくださいね!」
クローチェとルナーリアがそう言えば、マリーは力強く頷いた。
半年後に、マリーはフェルトマスコットでの『呪いのスーパーマスコット』を完成させた。
性能も良いし、見た目も可愛いので、人気商品となった。
マリーからお礼で呪いのスーパーマスコットをクローチェは貰った。
呪いモードは、いつでもオン・オフ設定ができるので、オフにして自室に飾っていた。
そして、フェルトマスコット作りにはまったクローチェは、次から次へとマスコットを作り、部屋に飾り、部屋に飾りきれなくなると、魔王代理やフィク、ルナーリアなど魔王城に住む皆にあげた。
一時期の魔王城はフェルトマスコットで溢れていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます