勇者目線の魔王城の日常!
意図せず変身魔法を使うことになってしまった、クローチェ、リザシオン、猫又は医務室の一角でフィクが用意してくれたお茶を楽しみながら魔法が解除されるのを待っていた。
ここは医務室。つまり、怪我をしたり体調が悪い魔族が来る場所だ。
「ぎゃあああ!先生っ俺のお気に入りの剣にスライムがくっついて離れねえ!てか溶かそうとしてる!早く離してくれ!!!」
「この金属うまーい」
「金属うまーい……じゃねぇよスライムめ!!」
来訪者1人目。お気に入りの剣をスライムに溶かされた狼男。
無事にスライムは引き剥がせたが、剣はボロボロになってしまった。
「あー姫様が猫になってるって本当だったんだー!そのフォーク美味しそうだねー」
「おいスライム!フォークを食べようとするな!このボロボロの剣やるからフォークを食べようとするな!!」
クローチェと猫又が狼男とスライムのやり取りを見て笑っていた。
「猫姿の姫様かわいーねー」
「猫又も人間の姿似合ってるじゃねーか」
わいわい会話をしている内に皆で写真を撮ったりした。
来訪者2人目。雪女が熱々のラーメンを食べて倒れちゃったそうだ。
「熱いもの苦手なのに何で食べたのにゃ?」
猫又がそう聞く。
「なんか~食べたいなーって気分だったの!あ~!そのケーキ美味しそう!もらうね~」
雪女は猫又が食べようと思ってたケーキをさらっていく。
「ねー猫又、いつもの姿よりその人間の姿の方が涼しげでいいよ」
雪女がさらっとそう言うと、クローチェが少し悲しそうな顔をした。
「じゃ、じゃあ今の私の姿って暑苦しい!?」
「あ~そうだね」
雪女が包み隠さず本音を言うから、リザシオンは飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。
「ちょ、ちょっと一言いいですか!?」
リザシオンは思わず挙手する。
「猫の姿のクローチェは可愛くて、可愛すぎて暑苦しさ何て微塵も感じませんっ!!!」
雪女は興味なさそうな顔でリザシオンのことを見ていた。よく見たら、口の端にクリームがついてる……。
「猫の姿の姫様も可愛いことは可愛いけど……普段の姿の方が100億倍可愛いよ」
雪女がそう言うと、クローチェのしっぽがぶんぶん揺れる。
「そう?えへへ照れちゃうな~!ねぇ、フィク!聞いてた?普段の姿の方が100億倍可愛いって!100億!!」
クローチェは上機嫌だった。
(ま、負けた……)
リザシオンはガックリ肩を落とした。
来訪者3人目。毒々しい紫色の鳥がやってきた。どうやら年齢はかなりのお年寄りらしい。
「ゴホッゴホゴホッ」
めっちゃ咳をしているから、たぶん風邪。
医務室の先生がテキパキと薬を処方する。
「じーちゃん、風邪大丈夫かにゃー?」
猫又がそう声をかける。
「ゴホッ……おぉ、猫又と姫様。ワシは大丈夫。それよりそっちも大丈夫なのか?」
「こっちも大丈夫!!時間はかかるけど、元の姿に戻ることは出来るから~!」
クローチェがそう答えると、鳥のおじいさんは「それなら良かった」と呟いた。
そして、ちょこちょこと寄ってくる。
「姫様、猫又、フィク、それと……勇者。皆、手を出せ」
全員が手を出すと、手のひらに小さな魔方陣が現れ、コロンと紫色の丸いものが1つ転がった。
「にゃー!じーちゃん、飴ありがとにゃ!」
猫又がそう言って飴を口にする。すぐにバリバリと噛み砕く音が聞こえた。
クローチェとフィクは噛み砕かずに味わって食べている。
しかし、リザシオンは手の上に転がる飴を見ていた。
鳥のおじいさんの羽と同じく毒々しい紫色をした飴……。
(これ、人間の僕が食べても大丈夫なのかな……?)
「ぶどう味の飴だ。毒などは入ってないから安心して食べれば良い」
鳥のおじいさんがそう言ったので、リザシオンはパクッと飴を口にした。
「本当だ、ぶどうの味……」
もうすっかり飴を食べた猫又とクローチェは、鳥のおじいさんとお喋りしている。
「元の姿に戻ったら、じーちゃんのところにお見舞いの品を何か持っていくにゃ!」
「あ、私も行く!」
「優しい子だな。もう1個飴をやろう」
わーいと猫又とクローチェは声を上げた。
鳥のおじいさんは薬を貰うと去っていった。
じっとクローチェを見ていたら目が合った。
「どうしたの?あ、まさか飴、もう1個欲しかったの?」
「いや、飴は別に。ただ、医務室に来た魔族達みんな、クローチェのことが……好きなんだなぁって。君は、皆から愛されてるんだね」
リザシオンがそう言うと、猫又が立ち上がる。
「当たり前だにゃ!姫様は魔王城で働く僕らのために、いつも色んなことを考えてくれてるのにゃ!!良い人を嫌う理由なんてどこにもないのにゃ~!」
「私も一緒だよ!皆が、一生懸命に働いてくれてるから、何かしてあげたいっておもうんだもん!」
「にゃ~!姫様大好きにゃ!」
「私も大好き~!」
猫又がクローチェを抱き上げてくるくる回ってる。
その姿を見ていたリザシオンは笑う。
魔族は欲望に忠実。
言い換えれば、自分の気持ちに素直。
少しだけ……魔族のことがより理解できたような気がした。
急に体が暑くなってきた。
すると、ふわふわと光の粒子がクローチェ、猫又、リザシオンの周りで踊り出す。
3人は光に包まれて……
「元に戻った!!」
クローチェが嬉しそうにそう言った。
「人間の姿も面白いかったけど、やっぱりいつもの姿が落ち着くにゃ~」
猫又のその言葉にリザシオンは頷いていた。
「皆さん、体調に違和感などありませんか?」
医務室の先生がそう聞けば、みんな「大丈夫です!」と答える。
そして、医務室の扉が開く。
「良かったわ。みんな、無事に元の姿に戻れたようね」
やってきたのは魔王代理。そしてその後ろに……
「あ~……元の姿に戻っちゃったんだ」
「リザシオンはずーっと女の子の姿でも良かったんだぞ」
「可愛い女の子が増えるのは大歓迎だよ!」
すごーく残念そうな目でリザシオンのことを見る3人。ミーチェ、アガット、フォルティだ。
リザシオンは複雑そうな顔をしている。
「さて、勇者さん達は私に用があるのよね。会議も終わったし、応接室に行きましょう。クローチェ、後でたっぷりお話しましょうね!」
魔王代理に連れられリザシオン達は応接室へ……。
「ええええ!?魔王に背く魔族達のグループをほとんど処罰した!?」
叫ぶリザシオン達。この応接室は防音がしっかりしているので、誰かに聞かれる心配は無い!
「えぇ、そうよ」
魔王代理は笑顔だ。
「仕事はやい……すごい……」アガットがそう呟くと、魔王代理は「うふふ」と笑った。
「え、じゃあ……まだ処罰できてないのは」
「リーダー格の魔族よ」
人間達を襲う計画を立てた、首謀者達がまだ処罰できていない。
「なるほど……じゃあ、私達が探すのは、かくれんぼが得意な首謀者達ね」
そう言うミーチェの瞳はギラギラしていた。
「中々しっぽを見せなくてねぇ……。怪しそうと思っている魔族達の情報をあなた達にも教えるわ」
魔王代理が机の上をコンコンと叩くと魔方陣が現れ、紙束がポンッと出てきた。
魔王代理が目を付けている魔族達についての情報がぎっしり書かれていた。
「それ、あげるわ。また何か聞きたいことがあれば、いつでもこの魔王城にいらっしゃい。あ、ストレスがたまってぱ~っと暴れたくなった時もこの魔王城に来るといいわよ~!魔族は戦うことが大好きだから。きっとクローチェは喜んで相手になってくれるわよ~」
魔王代理はにこやかにそう言うと、「まだ仕事があるから~」と言って去っていった。
リザシオンは紙束を持つ手に力が入る。
「みんな……探しだそう、首謀者達を」
ミーチェ、アガット、フォルティはニッと笑う。
「もちろん!!!」
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