勇者達は調査中
「あぁああっ!!疲れたっ!」
格闘家のアガットが手に持っていた紙を投げ捨てた。
「ちょっとアガット!紙、捨てないでよ!!全部目を通してないでしょ!?」
ミーチェが床に散らばった紙を拾う。
「いいだろ~?どうせそれも、同じような事しか書かれてないに決まってる!!」
アガットはそう言ってワシャワシャと自身の髪を掻き回した。
少し前……魔王城の罠にかかったミーチェ。そこで同じく罠にかかったクローチェと一夜を過ごし、人間を襲ったのは魔王が指示したことではないと知る。
人間を襲ったのは、魔王に従わない魔族達。魔王代理も調査中とのこと……。
ミーチェがそのことをリザシオン達に話すと、皆、改めて襲撃事件について調べ直すことになった。
そう、調べ直しているのだが……
「見事なまでに同じようなことしか書かれてないね。それに曖昧な証言ばかりでどんな魔族の仕業かわからない」
いつも余裕綽々なフォルティも疲れ気味。
魔族による襲撃事件で生存者はいない。
死体しか残らなかった。
残された痕跡と、襲撃があった村から少し離れた村の住民の証言しかない。
新聞や報告書を片っ端から読んでいるが、どれも曖昧で同じことしか書かれてない。
『複数の種類の魔族が襲撃した模様』
『殺害方法は様々』
『時間は真夜中、新月の日だった』
アガット、ミーチェ、フォルティが唸っていると……
「皆、お疲れ様!そろそろ休憩しよう。それと……ミーチェのリクエストの焼きリンゴ!」
リザシオンが甘い香りと共に部屋に入って来た。
ティーポットに人数分のティーカップ。そして、人数分の焼きリンゴだ。
「わぁ……!!焼きリンゴ、久しぶり~!」
ミーチェはさっそく焼きリンゴを頬張る。
その顔は一瞬で幸せそうな表情に変わる。
「今日はダージリンだね。いい香りだ……!」
「紅茶のことよく知らねーけど、リザシオンが入れてくれた紅茶はティーバッグの紅茶より美味しいってことはわかる!!」
フォルティとアガットもほっこりした表情になっている。
「それにしても……驚いたよ、リザシオン。君がこんなに料理が得意とはねぇ」
フォルティは焼きリンゴを食べながらそう言った。
「そうね、何でも作れて驚きだわ。この間のリンゴのタルトも美味しかったし、イチゴ飴も作ってくれちゃうし!」
「昨日の夕飯のアレ……アクアパッツァ!!めっちゃうまかったー!俺の胃袋、リザシオンにがっちり掴まれてるぞ~」
ミーチェとアガットもリザシオンを褒めまくる。
「そんなぁ~照れるなぁ。僕のお爺さんが料理人で、一緒に作るようになって、すっかり僕の趣味になって……」
リザシオンは嬉しそうに笑っている。
「さて……糖分補給したし、提案があるんだけど」
ミーチェが空になったティーカップを置くとそう言った。
「提案?」
リザシオンが首を傾げた。
「えぇ、私達は最近はずっと魔族襲撃事件について調べ直してたわけなんだけど……どんな魔族の仕業なのかわからない。結局、たいした情報は得られなかった」
「そうだねぇ……」
フォルティも頷く。
「そう、つまり……もう私達は新しい情報を手に入れることは不可能」
ガタッと音を立ててアガットが立ち上がる。
「何だよミーチェ、まさか提案って真犯人探しを諦めるってことか!?」
ミーチェは鼻で笑った。
「諦める?そんなわけないでしょ。魔王城に行くのよ」
「え、魔王城!?」
リザシオンが目を丸くする。
「魔王代理も調査してるって言ってたし、魔王代理が知ってる情報を聞きに行くのよ。それで、犯人がわかり次第ボコボコにしてやる」
フォルティは「なるほど」と頷いた。
「なるほど~!あ、じゃあ今度は戦いにいくわけじゃないから、手土産とか持ってた方がいいかな?」
リザシオンが突然そう言った。
「え、手土産?無くても良くない?」
ミーチェがそう言うが、リザシオンは首を降る。
「だって、魔王と魔王代理は悪くないのに、魔王は封印しちゃったし、魔王代理と戦おうとしたわけだし……やっぱり手土産は必要だと思うんだ。あ、魔王代理の好きなお菓子って何だろう?ミーチェ、クローチェから聞いたりしてない?」
「さすがに魔王代理の好きな食べ物については聞いてないわよ……。あ、クローチェの好きな食べ物なら聞いたけど」
リザシオンが勢いよく立ち上がる。
「クローチェの好きな食べ物!?え、なに!?」
ミーチェはリザシオンの勢いに驚きつつ「あ、アップルパイ……正確に言えば毒リンゴだけど」と答えた。
「なるほど!アップルパイかぁ~!じゃあ手土産はアップルパイで決まりだね!あ、メモしないと……クローチェはアップルパイが好物……!」
リザシオンはスキップしながら自分の手帳と筆記具を取りに行った。
「何でリザシオンはあんなに嬉しそうなんだ?」
「さぁ……?」
アガットとミーチェはひそひそとそんな会話をしている。
数日後、リザシオン達は久々に魔王城に訪れることになった。
「えっと……この場合、なんて言ったらいいんだろう?」
リザシオンがアップルパイの入った箱を抱えて魔王城の門の前に立っている。
「頼もーー!って言ったらいいんじゃね」
「いやいや……だめでしょ。今日は戦いに来たんじゃないんだから」
ミーチェがぺしっと軽くアガットの頭を叩いた。
「こんにちは、とかでいいんじゃないかい?」
フォルティがそう言えば、リザシオンが「確かにそうだね……」と言った。
「こ、こんにちは!魔王代理さんはいますか?」
リザシオンの声が辺りに響く。
何も反応がない……と思ったら。
「魔王代理様はただいま会議中です……」
リザシオンのすぐ側。
青白く、今にも消えそうな女性がそこにいた。
「うわぁあ!?だ、誰!?」
「魔王代理様の秘書をしております……リンゼンと申します~……」
「ひ、秘書さん。あ、えっと会議って、いつ終わりますか?」
「さっき始まったばかりですので……約二時間後に……終わります~……」
それを聞いたリザシオンはフォルティ達の方を見る。
「皆、どうする?出直す?待つ?」
「待つわ」
ミーチェがそう言えば、アガットとフォルティも頷いた。
「わかりました~……では、こちらへどうぞ~」
リンゼンの後をリザシオン達はついていく。
「ここは……図書館?」
リザシオン達は図書館に来ていた。
「はい~……二時間もありますので……ご自由にどうぞ~」
リンゼンはペコリと頭を下げるとスススッと去って行った。
リザシオン達は恐る恐る図書館内を見渡した。
「す、すごい……魔術についての本がこんなにあるわ……!」
ミーチェの瞳はキラキラと輝いていた。
「おや、あちらには歴代の魔王に書かれた書物があるみたいだね」
「え、本当!?フォルティ、一緒に見に行こう!」
リザシオンはフォルティと一緒に魔王について書かれた本を見に行く。
「俺、あっちの本棚を見てくる!」
アガットも自分の興味がありそうな本を探しに行った。
「わぁ……!あっちもそっちも魔王について書かれた本だ……!」
リザシオンはふらふらと辺りを歩いていた。
そんな時だ。
前方に誰かいる。
艶やかな黒髪を三つ編みにした少女。
少女が振り返る。
リザシオンは手に持っていた本を落とした。
「く、クローチェ!?」
そこにはクローチェがいた。
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